『ある男』

『ある男』平野啓一郎

読後の感想
この『ある男』の「男」って誰のことを指しているのであろうか。
最初はもちろん亡くなった谷口大祐(と名乗る人物)のことだっと思っていました。しかし実際に読み進めていくと、果たしてそうなのかという結論に至りました。
結論から書くと、私が考える「男」は、最初は狂言回しかと思っていた城戸のことではないかと思っています。
小説の中での城戸の設定は、在日三世で、妻との間には子供はいるがまぁまぁ冷え切っていて、美涼に妙にちょっかいをかけたりという感じだが、あちこちで心情を吐露する場面が多かったです。バーで他人を語ったり、美涼との関係を望んだりと、まるで城戸自身が谷口の人生をトレースするような動きをしていることに、妙な親近感と違和感を感じました。
ここで登場する人物たちは、いろいろな理由により他人の名前を語ったりしていますが、選択肢次第では城戸も同じようだったのではないかという危うさを感じました。
最後まで本を読み進めていると、実は城戸に関する描写のほうが多いのではないかと感じるほどでしたので、私は『ある男』は実は城戸に関する物語だったんじゃないかなぁという結論に至りました。

どっとはらい。

印象的なくだり
年齢が年齢だけに、親類や知人の訃報に接する機会も少なくはないが、生き足りないまま死んだ若い人間の通夜は、大往生の老人の通夜とはまったく違って、身に堪えた。残された妻も、小学生の二人の娘も泣き通しで、城戸は大した慰めの言葉もかけてやれなかった。確かに多少、肥満気味ではあったものの、本人が腹をさすりながら、笑ってダイエットの決意を語る程度のことで、誰も深刻には考えていなかった。斎場をあとにすると、彼が死んだという事実の現実感も、知らせを受けた直後の曖昧さにふらふらと踵を返してしまいそうになった(P.129)。

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