『百円の恋』
監督
武正晴
脚本
足立紳
レビューは2作目(2016年)、通算22作目。
鑑賞のきっかけ
公開されたのが2014年11月。
その頃埼玉県に出張しており、レンタカーを運転していてラジオの中で、主題歌のクリープパイプの「百八円の恋」に衝撃を受けたため、ずっと「見たい映画」リストに入っていました。
調べていなかったのですが、かなり評価が高いらしく、行きつけのレンタルビデオ屋さんではいつも貸し出し中。
そんな訳で、タイミング合ってようやく見ることが出来ました。
あらすじ
実家に引きこもり、自堕落な生活を送っていた32歳の独身女性・一子は、離婚して子連れで実家に戻ってきた妹の二三子と入れ替わるようにして家を出、百円ショップで深夜に働きながらひとり暮らしを始める。そんな彼女にとって、近所のボクシングジムで黙々と練習に励むボクサー、狩野の姿を仕事の行き帰りに眺めるのがいつしか日々のささやかな楽しみとなっていた。やがて彼女は、店の客として訪れた狩野と…。
鑑賞後の感想
なんといっても安藤サクラの演技力がすごい。
斎藤一子(安藤サクラ)は、ひきこもりでニート、甥っ子とゲームやって手加減しなかったり、ジャンクフードばかりでぶくぶくとしている自堕落な女性役でした。
しかし、ボクシングを始めて、引き締まった体つきになり、目つきまで変わっていました。
これが実際には二週間前後で変わったというのですから、本当に女優ってすごい。
ボクシングのポーズも様になっており、美しいと感じる場面もありました。
内容はいわゆるロッキーものというのでしょうか、自分を変えるためにひたむきに努力している姿を見ていると、見ている側まで元気が出てくるように思えました。
ボクシングの練習は鏡の前で、フォームを整えながら、ひたすら練習です。
つまりボクシングは今まで自堕落に生きてきた一子が、自分と向き合うという意味だったのではないでしょうか。
しかし、一子をとりまく環境は「社会の底辺」そのものです。
タイトルにもなっている「百円ショップ」の店員は、高圧的な本部社員、うつ病の店長、44歳でバツイチ・ギャンブル狂の野間(坂田聡)、レジのお金を盗んでクビになっても廃棄の食事をもらいにくるおばさん(根岸季衣)と何というかとても親近感が湧くものではありませんでした。
というか、嫌悪感でした。
追い打ちをかけるように野間から受ける残虐な行為。
(あのシーンって本当に必要?)
こうやって自堕落な一子の環境はどんどん悪化していきました。
そんな一子が送る社会の底辺の生活で、唯一心温まったシーンが、プロ定年間近のボクサーである狩野祐二(新井浩文)が練習するのを見つめる場面。
しかし、この狩野も一子が努力しているのを見て、自己嫌悪に陥り、一子を捨てて、なぜか豆腐屋の女とつきあい始めるクズでした。
というわけで、どんどん追いつめられた一子がプロテストに受かって、華々しくデビューを飾る・・・とならないのは、そんなうまくいかないからですよね。
ただ、一子がボクシングをはじめ自分と向き合うことによって家族とのが回復したように思います。
最後のシーンで「勝ちたかった」と泣きじゃくる一子とそれをなぐさめる狩野の二人が、夜の道を下っていくのは、彼らが迎える未来が暗いことを暗示しているとかしていないとか(パンフレットに書いてあるらしい)
音楽はクリープパイプ。
こっちは消費税込みで「百八円の恋」
エロの人だと思っていたけど、響く歌詞とメロディ。
「痛い」と「イタイ」と「居たい」を掛けた歌詞は一子というよりも狩野の心情だったのでしょうか。
途中メロディがマイナーに変わる部分が、恋の感情が揺れ動いたことの表れかなと思いました。
5店満点中4点です。