読後の感想
新庄耕先生の『地面師たち』シリーズの最新版にして前日譚の小説。
この小説はNetflixの後に書かれているので、いわゆる「あてがき」と呼ばれるキャスティングを先に想定した小説なのですが、登場人物が完全に俳優と一致していましたね。
特に、法律屋と呼ばれる司法書士崩れの後藤(というかピエール瀧)。
後藤の章は「もうええでしょう」がずっと頭の中をリフレインしていました。
ところで、アノニマスって単語は「匿名」という意味なのに、登場人物は全てハリソン山中と出会う前の「実名」で登場しているのはなぜなのでしょうね。
(逆にハリソン山中だけがウチダと名乗っており、例外的に匿名とも言える。)
登場人物はみな少しずつ他人に裏切られながら、自ら破滅の道に転落していく様が、哀しくもあり、愛おしくもありました。
もちろん特筆すべきは後藤氏。
家族があり、決して根っからの悪人ではないように描かれていますが、小さなきっかけからどんどん道を外れ、歯止めが効かなくなります。
当初、ハリソン山中の誘いに対して、司法書士の品位保持義務を理由にきっぱりと断り、しかもその誘いに怒りの感情さえ見せていた後藤。
その後藤が、きちんと司法書士業務を行おうとする資格者に対して「もうええでしょう」と脅し、強引に決済の完了を迫るまでの過程を考えると切なくなります。
あの後藤の言葉は「どのような感情を表したものだったのか」「あの(何も知らない)司法書士は責任を問われるであろう、と分かった上で」の「もうええでしょう」なのです。
私もピエール瀧のような立派な司法書士になりたいものです(ちょっと違う)。
あと39ページの「人生」の「オールナイトロング」はずるいよね。
「電気グルーヴ」の前身である「人生」(インディーズ時代はZIN-SAY)の「オールナイトロング」を後藤の章に出してくるのは反則です。
でも元の曲は「き〜んたまがみぎ〜によっちゃった〜、はい、オールナイトローング」という下劣な歌詞ですが。
「もうええでしょう」を深く味わいたい人はぜひ。
印象的なくだり
「私も、もう一杯もらっていい?」
ランが媚びた表情でこちらをうかがっている。
小遣いはわずかで、妻子のためにも無駄な金は使えない。「今夜はほんまごめん。今度な、今度」
腕時計に目をやると、セット料金の終了時間と門限がせまっていた。
「あかん、もう帰らな。最後、『オールナイトロング』歌って行くわ。ランちゃん、入れてくれる?」
ほかの客のところへ行こうとするランを引き止め、カラオケのリモコンをもたせた。
「誰の曲だっけ?」
「それ忘れたら、あかんやん」
後藤は、残りのハイボールを呑み干してからマイクを握り、
「人生」
と、厳かな声で喉をふるわせた(P.039)。
瀧
「先生さすがだなと思ったのは、そのシチュエーションとかキャラクターを説明するのに、二行ぐらいの文章でバッとイメージを掴めるんですよ。竹ちゃんと競馬場に来た女が、「画面にクモの巣状のヒビが入ったスマートフォンを気だるそうにいじっている」とか。竹ちゃんとの関係性と競馬場に連れてこられた退屈さと、女の人の生活感というのが一発で分かる。そういう文章が結構あるんです(P.219)。
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