『生命保険のカラクリ』

『生命保険のカラクリ』
岩瀬 大輔
文藝春秋

読後の感想
久しぶりに自分の無知を恥じた一冊。非常に分かりやすく構成された内容でした。特に第三章で生命保険の利潤の内容とその矛盾をつき、それを受けて第四章の「かしこい生保の選び方」の流れは秀逸で、非常に説得的。
また保険の流れを説明すると同時に、消費者と会社との情報・知識が偏在している過去と、これからは公開され平等に向かうだろうと見通す展望は流石だなぁと思いました。
若干情報が古いのは致し方ないですが。
この本を読み、かつて消費者の無知を食い物にしていた分野は悉く放逐されていくだろうとの認識をいっそう強めました。
全く個人的な感想としては、(P.139)のくだりを読んだときに、率直に「この人いい人だなぁ」との感想を持ちました。

印象的なくだり
移動時間は片道四時間、滞在時間は二十分程度だっただろうか。はじめての死亡保険を払いにいったこの日のことー短い時間だったが、自分が携わっている「生命保険業」という仕事がどんなものかーそれができること、できないことーその本質について深く考えさせられた一日だった(P.011)。

この事業には社会を変革する大きな可能性があることを、理解することができた。
理由は、三つある。
まず、市場が非常に大きいこと。
(中略)
次に、市場がとても非効率であること。
(中略)
そして三つ目の理由として、このような巨大で非効率な市場にも、変革の波が訪れていたことがある(P.016)。

一連の不払い問題が起きた理由は、表面的には支払管理態勢が不十分だったことにある、しかし、より本質的には「販売至上主義」と、生保のカルチャーとしての「顧客軽視」があったと考える。
すなわち、誰も理解できないような複雑な商品を五0%という異常な離職率にある営業職員に厳しいノルマを課して押し込ませていたことから、契約内容をよく理解しないまま入っている顧客がたくさんいることに、本来的な問題があるのである(P.062)。

わが国の公的な健康保険制度は、諸外国の中でももっともよく整備されているものの一つであるといわれる。まるで空気のように存在しているため、改めてありがたみを実感する機会が少ないのだが、医療費はほとんどが健康保険でまかなわれ、自己負担分にも一定の上限が設けられている(P.115)。

余談ながら、個人的には災害で亡くなろうが病気で亡くなろうが、残された家族に必要な資金に変わりはないのだから、この特約がどのような意味を持つのか、なかなか理解できずにいる(P.139)。

現状がどうであれ、売り手である保険会社と買い手である国民との間に、大きな情報格差があることを前提としてきた既存のビジネスモデルでは、この先立ち行かないだろう。インターネットやブロードバンドの普及による新しい情報化の流れは、ひとりひとりの消費者に多くの知識と情報を与え、個人が企業と対等に向き合う力をつける(P.189)。