『きっと、うまくいく』
インドの映画
きっと、うまくいく
3 Idiots
監督
ラージクマール・ヒラーニ
脚本
ラージクマール・ヒラーニ
ヴィドゥ・ヴィノード・チョープラー
アビジット・ジョーシ
原作
Chetan Bhagat
『Five Point Someone』
出演者
アーミル・カーン(ランチョー)
R・マドハヴァン(ファラン・クレイシー・狂言回し)
シャルマン・ジョシ(ラージュー・ラストーギー)
ボーマン・イラニ(ピア・サハスラブッデー)
あらすじ
舞台はインド。
10年前にICE工科大学の寮でD26号室で同室だったランチュー、ファルハーン、ラージュー。
しかし、卒業を期に、ランチューだけが連絡がとれなくなってしまっていました。
三人はいわゆる三バカトリオと呼ばれて、大学長から目を付けられていました。
鑑賞のきっかけ
レンタルビデオショップの店頭で見て気になっており、「見たい映画リスト」の中に入っていました。
友人のEさんのフェイスブックを見て見ようと決意しました。
レビューは1作目(2017年)、通算28作目。
鑑賞後の感想
インド映画の基本は、全部詰め込み型。
喜怒哀楽から、シリアス、恋愛、感動と170分の映画に全部まとめて入っていました。そんな映画。
インド映画らしく途中でミュージカルのように全員で歌い踊り出すシーンもあり、アニメーションで比喩したり、白黒映画にしてラージューの貧しい家庭を表現するなど、演出方法が実験的で挑戦的でした。こういうの好きだし、惹かれるんだよなぁ。
この映画は、友情と成長が表のテーマだとすると、裏のテーマはインドの抱えている教育に対する矛盾と、個への抑圧の解放があるのではないかと思います。
主人公のランチューもある意味インドの伝統的な身分制度の犠牲者でもあり、ファラーンは家父長に反抗できず抑圧されている、ラージューに至っては期待に押しつぶされる若者の典型でした(明確に書かれていないけど、ラージューの家はカーストの下の方っぽい)。
そして、ランチューと知り合い友情をはぐくみあうことによって、ファラーンとラージューはランチュー考え方の影響を受け成長し、周囲の問題を乗り越えていきます。
ところが、ランチューに課せられた問題は実は触れないまま進んでいくのでした。
ランチューの持っている真の問題の重大さをひも解くために映画の大半の舞台は10年前にさかのぼります。
(余談ですが、この映画は10年前と現在を行ったりきたりするのですが、現代の問題を解決するために過去に戻るところは、クロノトリガーと一緒ですね)
10年前の三人の物語には、大学生時代の三人の友情、学長との確執、学長の娘とランチョーとのラブロマンス、両親との和解など、青春友情映画にありがちな要素満載でしたが、一つ大きく特徴的な内容がありました。
それは「若者の自殺」です。
物語中、幾人もの若者が自ら命を絶つ(絶とうとする)シーンがあります。それは、インドの強烈な競争社会のひずみなのです。
学長は学生に向かってアジります「人生は競争だ」と。
物語の舞台であるインドは、まだまだ家父長制が強い国です。
子供は生まれたときから父親からエンジニアになるように進路を決められて、家族の収入の大半をつぎ込まれて期待されるのです。
当然全員がその期待通りにいける訳ではなく、途中でドロップアウトするものも出てきます。ところが、過剰な期待に押しつぶされて途中で自殺する(I QUITと書き残して)のが社会問題となっているようです。
ICE工科大学は40万人に対して200人という超狭き門。その中に入れたあともまた競争・競争に次ぐ毎日。
主人公のランチューはそんな社会構造のあり方に疑問を持ち、独自のやり方で既存の仕組みに対して反抗していくのです(でも、その割には既存の試験では優秀な成績を取るという、完全無欠型です)。
映画の構成もすばらしく、まずは現在のファラーンとラージュー(そしてイヤな奴役のチャトゥル)が、連絡が取れなくなったランチューを探すシーンから始まります。
そして、狂言回し役のファラーンの回想シーンに進み、彼らの出会い・友情の熟成・それぞれの成長と別れに話が進むにつれて、ランチューに近づいていくという組み立て型も本当に分かりやすかったです(まさにランチュー導師の教えの通り)
終盤への複線もあちこちにあって、それを回収しつつラストシーンにたどり着く構成は本当に見事でした。
小さいネタでいうと、「ミリ坊や」が成長して「センチ」になったり、飼い犬たちが「キロバイト」「メガバイト」「ギガバイト」だけど、「バイト(噛む)」しないよ、とか、分かる人だけクスリと笑えるシーンがたくさんありました。
ただ、ランチューの本名のランチョルダース・シャマルダース・チャンチャルが変な名前というのはいまいちピンと来なかったですね。
ちょっと長いけど、若者たちの成長する姿を見ていて心がすっとする映画です。
5点満点中5点です、おすすめです。