『サクッと分かるビジネス教養東南アジア』

『サクッと分かるビジネス教養東南アジア』

『サクッと分かるビジネス教養 東南アジア』は、東南アジアに関わるビジネスパーソンに向けて、地域全体の文化、経済、歴史などを分かりやすく解説する一冊です。
この地域に出張する機会の多い現代のビジネスパーソンにとって、東南アジアの国々は多様な文化的背景や社会制度を持つ魅力的な市場であり、この本はそのような背景を理解するための手助けとなるでしょう。
著者は、地理的、宗教的、経済的な視点を通して、東南アジアを総合的に捉え、読者が実務で役立てられる知識を提供しています。

出張の際の服装の重要性
まず印象的だったのは、東南アジアでのビジネスマナーに関する具体的なアドバイスです。
特に「出張の際の服装」についての記述(P.027)は、日本人ビジネスパーソンにとって参考になる内容です。熱帯地域である東南アジアでは、エアコンが効いた室内で働くことがステータスとされ、現地のビジネスマンはジャケットやネクタイを着用することが一般的です。
これに対し、日本からの出張者が半袖のシャツ一枚で訪れると、場違いな印象を与えかねないという指摘は、ビジネスシーンにおいて軽視できないポイントです。
私は東南アジアには旅行者としてしか行ったことがないのですが、確かに官庁街(特にベトナムのハノイでは顕著だった)では、靴を履いている人=エリートという感じでした。

このような細やかな服装の配慮は、単に見た目の問題だけでなく、ビジネスマナーの一環としても非常に重要です。
現地の文化や習慣を尊重し、その場に適した服装を選ぶことは、相手に対するリスペクトを示すことに繋がります。
特に、初めてビジネスで東南アジアを訪れる際には、事前の確認を怠らないことが重要です。
この本は、そうしたビジネス文化の違いを具体的な例を挙げて説明しており、読者が実際のビジネスシーンで役立てやすい知識を提供しています。

東南アジアにおける仏教の影響
次に、東南アジアにおける宗教の影響も詳しく説明されています。
特に仏教に関する章(P.032)は、東南アジアの文化的背景を理解する上で重要です。
インドで生まれた仏教が、ブッダの没後に大乗仏教と上座部仏教に分かれ、それぞれが異なる地域に広がっていった過程が簡潔にまとめられています。
大乗仏教が中国を経由して日本やベトナムに伝わった一方で、上座部仏教はインドから東南アジアの国々に広がりました。

特に上座部仏教の影響を強く受けた国々では、出家や修行が非常に一般的な慣習とされています。
黄衣をまとった修行僧が托鉢をする光景は、東南アジアの街中で頻繁に見られる風景であり、これは地域の宗教的、精神的な価値観を象徴するものです。
こうした宗教的背景は、ビジネスにおいても重要な意味を持ちます。
例えば、僧侶や宗教施設への接し方など、現地の宗教的感情を理解し尊重することが、ビジネス関係を良好に保つために必要です。私も旅行中に見た電車やバスの中で「僧侶ファースト」と記載され、敬意を払っている様子を見受けました。少なくとも他国の人が敬意を払っているものに対しては、軽んじることは避けるべきですね。

さらに、仏教が個人の修行や救済を重視する上座部仏教の影響は、ビジネスマインドにも反映されているかもしれません。
個々の努力や自己規律が重んじられる社会では、自己成長や責任を重視する文化が育まれており、これが現地のビジネス習慣や仕事の進め方にも影響を与えている可能性があります。
東南アジアでのビジネスを成功させるためには、こうした宗教的・文化的背景を深く理解し、適切に対応することが求められるのです。

インドで生まれた仏教は、ブッダの没後、大乗仏教と上座部仏教に分離しました。多くの人が救われることを理想とする大乗仏教に対し、上座部仏教は個人が修行をして自力で救済されることを理想とします。大乗仏教は、中国に伝わり、朝鮮、日本、ベトナムに伝来。上座部仏教は、インドから南東方向に伝播しました。上座部仏教の国では、多くの人が「一度は出家・修行すべきだ」と考えており、黄衣をまとった修行僧が托鉢をする光景が、街中で見られます(P.032)。

教育の格差と識字率
東南アジアの教育に関する章も、非常に興味深い内容です(P.046)。
多くの国で識字率が90%を超えている一方で、依然として教育の格差が存在しており、教員や学校の不足が経済成長の足かせとなる可能性が指摘されています。
具体的な識字率のデータを挙げることで、各国の教育レベルの差が浮き彫りにされています。

例えば、ベトナムやタイの識字率が90%を超えている一方で、ラオスやカンボジア、ミャンマーでは80%前後、東ティモールでは68.1%と、国によって大きな差があります。
これらの違いは、経済発展や産業の発展にも直結しており、ビジネスパーソンが東南アジアで事業を展開する際に無視できない要素です。
識字率が低い国々では、労働力の質や教育レベルに注意を払う必要があり、それが事業戦略にも影響を与えるでしょう。

また、この教育格差は、東南アジア全体が経済的に発展する中で、国際的な競争力に影響を与える要因ともなります。特に、技術革新や情報化が進む現代において、教育の普及とその質の向上は、各国がグローバル市場で競争力を保つために不可欠な要素です。この本を通じて、東南アジア各国の教育状況を把握することは、ビジネスの戦略を立てる際に非常に有用です。

参照として、ユニセフの統計データです。
「表11:教育指標」に識字率があります。2023年はラオスは「データなし」になっていますが、、、。

ASEANとその課題
ASEAN(東南アジア諸国連合)の役割とその特異な運営方式「ASEAN Way」に関する章も、非常に読み応えがあります(P.075)。
ASEANは東南アジアの政府間組織で、10カ国が加盟しており、年に2回の首脳会談や閣僚会議を通じて、経済や軍事、教育など幅広いテーマについて協議されています。
ASEANの特徴は、全会一致や内政不干渉を原則とする緩やかな協力体制です。
この「ASEAN Way」は、加盟国が対等であり、他国の内政に干渉しないという原則に基づいています。
このため、文化的・政治的に多様な国々が協調し合うための柔軟な枠組みとして機能しています。し
かし、全会一致が必要なため、たった一国の反対で意思決定が遅れることもあり、時には機能不全に陥るリスクも指摘されています。
たとえば、2006年に軍事政権下のミャンマーが議長国となった際には、人権侵害を問題視した欧米諸国がASEANとの会合をボイコットする事態が発生しました。
この例は、ASEAN Wayの限界を浮き彫りにしています。
ASEAN Wayは、一見して柔軟で協調的な制度ですが、国際的な圧力や加盟国間の政治的対立が生じた際には、その緩やかさが足かせとなることもあります。
しかし、文化や歴史、政治体制が異なる国々が協調していくためには、こうした緩やかなルールが不可欠であるという現実もあり、ASEANがどのようにしてそのバランスを維持していくかが注目される点です。

メコン川を巡る地政学的問題
最後に、メコン川を巡る地政学的な問題(P.087)も、東南アジアの国際関係を理解する上で重要なトピックです。
メコン川は、東南アジア大陸部の5カ国(ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー)にとって、農業や漁業のための重要な水源です。
しかし、近年、中国がメコン川の上流に次々とダムを建設しており、その影響で下流域の水位が低下し、淡水漁業や農業に深刻な被害をもたらしています。

この問題は、東南アジアの国々が共同で水資源管理を行うために設置されたメコン川委員会でも解決が難しい問題となっています。
特にラオスは多くの支流を持ち、水力発電に有利な立場にありますが、中国との関係が複雑化しているため、これが地域全体の経済的安定にも影響を与える可能性があります。こ
うした地政学的な問題は、単に環境問題にとどまらず、地域全体の経済や安全保障にも関わる重要なテーマです。

国際河川であるメコン川でのダム開発には、メコン川委員会での関係国との利害調整が必要です(事実上不可)。支流を多く持つラオスが水力発電で有利なのはこのためです。同委員会に入っておらず、上流にダムを次々と建設する中国(P87)は、ラオスをはじめメコン川中下流域国との関係を複雑化しています。
ラオスは5ヵ国に囲まれた国です。カンボジアと同じく親中国であり、ラオスと中国の間には高速鉄道が建設されています。同じ社会主義国であるベトナムを、発展を成功させた兄貴分として慕っている一方、民族的に近く、相互に言語が通じるタイとの関係は、ベトナムほどではありません(P.133)。

ラオス人民軍博物館を訪問したときに、ラオス独立の歴史の展示を見てきました。そこにはベトナムの国旗があちこち飾られており、ラオスとの密な関係性が伺えました。
特に、独立時に支援してくれたベトナムとは、日本的な用語を使えば「苦楽を共にした」感じになるのかもしれないですね。
とはいえ、ホーチミンルートの関係で大量の地雷を残されたラオスとしては愛憎混じった複雑な感情なのかもしれません。

まとめ
『サクッと分かるビジネス教養 東南アジア』は、東南アジアの多様性を理解するための非常に有用なガイドブックです。ビジネスパーソンに必要な知識を幅広く提供し、文化的背景や歴史、経済状況を通じて、東南アジア各国とのビジネス関係を成功させるための視点を与えてくれます。特に、出張時の服装や宗教的背景、教育や政治の問題、環境資源に関する課題など、具体的な事例を挙げながら、読者が現地で直面する可能性のある問題に備えることができるようになっています。

この本を手に取ることで、東南アジアにおけるビジネスチャンスを最大限に活かすための準備が整うでしょう。地域の複雑な問題を理解し、適切な対応をするための第一歩として、この本は非常に価値ある一冊です。

どっとはらい

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