いつの間にやら、西山記者は国家権力に立ち向かい、言論の自由を守った記者ということになっているようですが…
確かに、西山氏が毎日新聞記者時代に、いわゆる沖縄返還協議の密約の存在をスクープしたことは事実です。そして、それが国家公務員法111条、109条12号、100条1項の「そそのかし」に該当し有罪となったのも事実です。
しかし、それは密約を暴露した「だけ」が原因ではなく、その密約を手に入れるために、外務省の女性職員に近づき、肉体関係を持って、その密約を手に入れたという手段が正当な業務ではない(よって違法性が阻却されない)という意味です。
つまり、手段・方法が社会通念上正当なものであれば、そもそも正当な業務であるのだから、違法性はないと考えます。
判決の要旨にも「報道機関が公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、直ちに当該行為の違法性が推定されるものではなく、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為である。
当初から秘密文書を入手するための手段として利用する意図で女性の公務員と肉体関係を持ち、同女が右関係のため被告人の依頼を拒み難い心理状態に陥つたことに乗じて秘密文書を持ち出させたなど取材対象者の人格を著しく蹂躪した本件取材行為(判文参照)は、正当な取材活動の範囲を逸脱するものである。」とあります。
それから、今回の国家賠償訴訟は、請求権が消滅しているので、そもそも密約うんぬんに踏み込むレベルではないというのは当然だと思うのですが、どうなんでしょうか。
控訴するようなので、気になるところですが、きっと請求権の発生時期を後ろにずらして、起算点を後らすのかなぁと思います。はてさて。
西山記者事件(最決昭和53年5月31日)
http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/E703410F10F24A7549256A850030AAB9.pdf