『台湾 したたかな隣人』
集英社
酒井亨
読後の感想
やや民進党よりの記述が多い点を割り引いても、今の台湾の政治が分かりやすくまとめられている本でした。
特に、政党の成り立ちまで立ち戻った記述は、理解の大きな手助けになりました。
全体としての視点が、市民の立場より政治を見るという見方なのは好印象。
視点が変わるとこうも評価が変わることを教えてくれました。
印象的なくだり
実際、台湾人と仕事をしていると、イベントを計画するときなど、頻繁に日程を大幅に変えたりしている。
しかもその場になっても順序を変えたり、司会者を変えたりする。
最初は閉口したものだが、それは一方では臨機応変で危機にも対処しやすいということでもある。
民進党がたびたび失敗に直面してきたのに、挫折せずに、すぐに気を取りなおし、態勢を立てなおすことができるのは、そうした臨機応変さにあるともいえる(P041-042)。
台湾の民主化の原動力となったのは、活発な社会運動と市民社会だったと考える。
そうした基盤があったからこそ、台湾は順調に民主化を進めることが可能だったのであり、民進党を与党に押し上げることにもなったのである(P050)。
独裁者・蒋経国の穏便な対応については、大局にたったリベラルなものと評価する見方がどういうわけか日本にはあるが、それは見当違いというものだろう。
背景には、環境保護、人権擁護運動など市民社会側の攻勢が、もはや独裁政権の力では抑えつけることができなくなっていた、という情勢があったのである(P080)。
「総統は陳水扁、立法委員は国民党」という人がかなりいるということは、「ねじれ」や「一貫性のなさ」にもみえる。
だが、実際にはそうではない。
要するに、国民党が「中国国民党」であるのは中央本部や台北市だけの話で、一皮剥けば、つまり中南部の地方基層レベルでは国民党もただの地元密着型の地方派閥の連合体でしかない(P148)。
台湾の法制度では地方自治体の権限はそれほど強くはない。
台湾の「県」というのは日本の県と同格ではなく、日本の町村ほどの権限もない。
だから、県レベルで「両岸関係」は争点にもならないし、考えられもしないのである(P161)。
そもそも「台湾は独立国家ではなく、潜在的に中国のもの」という「一つの中国論」はもともと米国が考案したものであって、中国側から提案したものではない。
台湾が民主化して中国と異なる国家として動いている現在でも、米国が時代遅れのこの論に固執するのは、米国の対中戦略と関係がある。
米国は中国全体を民主化して、親米政権にすることを狙っている。
そのために台湾の独立を認めず、曖昧な状態にすることで、中国を米国との交渉につなぎとめておくことができる。
また台湾の地位が曖昧であれば、中台間で緊張が起こり、米国は台湾に武器を売りつけて稼ぐこともできるし、中国に併合されたくない台湾は米国の言うことを聞かざるをえない。
まさに一石二鳥である。
逆に台湾の地位を明確に独立国家と認めた場合、中台の緊張はなくなり、台湾は必ずしも米国の言いなりになる必要もなくなる。
米国にとっては台湾は曖昧にしておくに限るのだ(P180-181)。
戦後、日本は五一年署名のサンフランシスコ平和条約によって台湾を正式に「放棄」した。
同条約には、台湾の帰属先は明記されておらず、台湾の地位は未定となっている(P194)。