『国家の品格』
新潮社
藤原正彦
読後の感想
思想の偏りを抜きにできれば結構面白い本でした。特にワンステップの論理しかできないという話は納得。まぁ衆愚政治を嘆き哲人政治の方向に、というところまではまだなんとか理解できるんだけど、そのあとはドガチャガでした。なんというかお酒の場所での同席はごめんこうむりたいですね。それにしても日本のすばらしさを強調する言葉がすべて外国人の視点からなのは、いろんな意味で示唆に富んでいます。
いい教師は、素晴らしい反面教師でもあることを体現していると感じました。
印象的なくだり
実力主義に反対する人は世界中にほとんどいない。カッコ悪いからです。「お前に実力がないから言ってるんだろ」と思われるのがオチなので、誰も反対しない。
逆に「実力主義を導入すべきだ」と言ったらカッコ良い。自分は凄く実力があるのにみなが正当に評価してくれない、というような意味を言外に匂わせているのですから。したがって競争社会とか実力社会というのは、野放しにすると必要以上に浸透していきます。究極の競争社会、実力主義社会はケダモノの社会です(P026)。
英語というのは話すための手段に過ぎません。国際的に通用する人間になるには、まずは国語を徹底的に固めなければダメです。表現する手段よりも内容を整える方がずっと重要なのです。英語はたどたどしくても、なまっていてもよい。内容がすべてなのです。そして内容を豊富にするには、きちんと国語を勉強すること。とりわけ本を読むことが不可欠なのです(P040)。
受けるのはワンステップの論理だけ
国民に受けるのは、「国際化だから英語」といった、いちばん分かり易いワンステップの論理だけです(P043)。
重要なことは押しつけよ
本当に重要なことは、親や先生が幼いうちから押しつけないといけません。たいていの場合、説明など不要です。頭ごなしに押しつけてよい。もちろん子供は、反発したり、後になって別の新しい価値観を見い出すかも知れません。それはそれでよい。初めに何かの基準を与えないと、子供としては動きがとれないのです(P049)。
精神分析学者でナチスに追われアメリカに亡命したエーリッヒ・フロムは『自由からの逃亡』で、自由と民主主義の中からヒットラーが台頭した理由を心理学的にこう分析しています。「自由とは面倒なものである。始終あれこれ自分で考え、多くの選択肢の中から一つを選ぶという作業をしなければならないからである。これが独裁者につながる」。ヒットラーは独走したというより、国民をうまく扇動して、その圧倒的支持のもとに行動したのです(P078)。