『一勝九敗』

『一勝九敗』
新潮社
柳井 正

読後の感想
まだ回顧録を書くには早いと思うけど、ユニクロの経営者、有名な読書家で、柳井さんの一冊。
考え方の根幹はボトムアップ。特にPDCAサイクルをうまく使いながら大きくなってきたという。その点は本の中でも何度も強調されています。
理想は小さな会社作りで、トップの志向が直接店舗に反映される形を目標としているようでした。具体例が非常に分かりやすく、非常に参考になりました。
また幾つか先見があり新鮮でした。その一つに国際化を進めていくことがありました。しかも、国内に向きがちな繊維業で。これから内需ばかり見ていてはいけないという柳井さんの新年が伝わってきたような気がします。

印象的なくだり
現代人は情報によって行動することが多い。良い商品を置いておくだけでは売れない(P.094)。

かつては、店長の次にはスーパーバイザーになるという図式であった。チェーンストア理論によると、店長は出世のステップにすぎない。店長を経てスーパーバイザーになり、今度はその上のブロックリーダーになる。そして本部にあがる。しかし、このやり方ではダメなのである。店長を最高の仕事ととらえ、
店長の仕事を全うすれば、本部にいるより高収入が得られる。このような仕組みを作らないと、小売業は繁栄しない。
店長が最終目標なのである。そういう意識がないために、店長という職種に対して誇りを持てないのだ。スーパーバイザーとか本部の方が偉い気がしていてはいけない。店長というのは、上の言うことを聞いてそのとおりに店舗運営をやる人だと思っていてはいけないのだ。店舗の自主性ということよりも、本部で全部決めたことを実行する。考えるのは本部、実行するのは店舗という図式になってしまったら、もう将来性はない(P.156)。

会社組織は、その会社の事業目的を遂行するためにある。一旦、組織ができあがってしまうと、今度はその組織を維持するために仕事をしているようにみえることがある。何が何でも組織を維持していかなければいけないんだ、という錯覚におちいる。大きな組織になればなるほど、そこを間違える。おそらく組織保存の法則のようなものがあって、組織をつくると上司はそれに安住する方が楽なので、変化を求めず安定を求めていく。会社の環境、顧客や社会情勢が変わると、組織や人員配置を変えなければ対応できないのに、環境が変わったこと自体を認めなくなるのだ。組織は攻めのためにつくり、守りのためには必要最低限のものしかいらない。常に、組織は仕事をするためにあって、組織のための仕事というのはない、と考えておく必要がある(P.164)。

人が仕事をする上で、大きな動機となるのは、正当に人に評価されるということだ(P.173)。

商売というのは、現状があまりうまくいかないときに、「だったら、どうすればうまくいくのか」ということを徹底的に考えるということであり、成功したと思った時点でダメになるのだと思う(P.196)。
日本での出店の実例を考えると、ある地域に集中出店し、一定の店舗数を超えると、九に売上が伸びる。ドミナント現象が起こるのだ(P.201)。

ほとんどの人が、失敗しているのに失敗したと思わない。だから余計失敗の傷口が深くなる。「回復の余地なく失敗する」ということは、商売や経営の場合「会社がつぶれる」ことを意味する。「会社を絶対につぶしてはいけない」ということが、すべての根本だ。それを分かったうえで、早く失敗しないといけない。
(中略)
もうひとつ大事なことは、計画したら必ず実行するということ。実行するから次が見えてくるのではないだろうか。経営者本人が主体者として実行しない限り、商売も経営もない。頭のいいと言われる人に限って、計画や勉強ばかり熱心で、結局何も実行しない。商売や経営で本当に成功しようと思えば、失敗しても実行する。また、めげずに実行する。これ以外にない
(P.226)。