『少年H(上)(下)』

『少年H(上)(下)』
妹尾河童

読後の感想
細君の蔵書から拝借しました。
戦前戦後を少年として過ごした著者の自叙伝的小説です。
神戸という戦前でも外国に開かれた街に育ち、ご実家が洋裁店を営んで外国人の顧客も多く持ち、さらにクリスチャンの両親に育てられた著者の河童さん、他の子供とは違って視野が広い少年時代を送っていたようで、事実についてかなり冷静に書かれています。

タイトルの「少年H」の由来ですが、著者の河童さんは元々は「肇」という名前であり、前述の通り洋裁店のご両親が名前入りの「H.SENO」というセーターを息子にいつも着せていたので、みんなから「エッチ」と呼ばれていたそうです。

事実誤認だらけであると書いている「間違いだらけの少年H」(こっちはまだ読んでいません)なんていう批判本もあるようですが、戦争を知らない世代の自分にとっては一つ一つのエピソードが戦争の狂気を感じさせ、そちらの効用が大きくそしてまた戦争の時代が来たらどうしようとドキドキしながら読みました
(本書は事実関係に誤りが多いようですがその辺は割り引いて下さいな)。

全編を通じて総ルビで、一つ一つのエピソードが短く読みやすくなっているので、誰に向けて書かれているのかがはっきり分かり非常に好感が持てました。
戦争を知らない世代に読んでもらいたい、という気持ちは僕も同感で、子供にもいつか読ませたいなぁとしみじみ思いました。

印象的なくだり

Hは、焼夷弾を落とした敵を恨むより、現実を教えないで嘘ばかりついて、国民を騙し続けていた奴のほうが憎かった。それは、政府や軍や新聞社だった(下巻P.153)。

Hは、このときハッキリ感じたことがあった。人に物ををもらうことが、どういう状態だと素直にもらえて嬉しいか、ということだった。
簡単にいえば、もらいに行くのは絶対に嫌だが、もってきてくれた物は感謝して貰える、ということだった。実に単純なこの差が、自分にとって大事なものだったのだと知った(下巻P.178)。