『「段取り」の鉄人 四川飯店・陳建一が語る一流になるための仕事術』
陳建一
読後の感想
テレビ番組「料理の鉄人」の中華の鉄人として有名な陳建一さんが書いた「段取り」の本。
僕が最も尊敬する上司の口癖が「仕事は段取りが八割」ということもあって
「段取り」と書かれた本には否応なく目が行ってしまいます。
なぜ料理人が段取りの本を?と最初思っていましたが
読んでみたら「なるほど」と思うことばかりでした。
料理をしない自分にはピンと来なかったのですが
実は料理は「段取り」が全てなのです。
複数の料理を同時につくろうとした場合や、蒸したり時間がかかる場合、
あるものを作っているのと同時進行で、次の料理の下ごしらえをしたり、と
作りたてのものを同時に食べようと思ったら、上手く段取りするほかはないのです。
本には料理の段取りだけではなく、食材を揃えるための準備の段取り、
会社を成長させるための人材育成の段取り、などについても触れられています。
いざ何かを行おうとしたときに、段取りがされていないと何にもできないので
何はなくても準備しておくことの大切さが記された部分が印象的でした。
また、陳さんにとって「料理の鉄人」という番組がどれほどの影響力を
与えたか、という部分も大変興味深かったです。
「料理の鉄人」は一時間という時間制限があり、その中で
どのように料理を作るか、という段取りの努力。
ただ美味しいものを作るのではなく、絵的に美味しいもの、審査員が食べやすいもの、
女優さんだったら小さく切ったり、と食べる人の気持ちを推し量って作ってたこと。
テレビの画面では見えなかった数々の努力が伝わってきて
ただチャラチャラテレビに出ているのではなかったと今更ながら感銘を受けました。
現在は何よりゴルフ好きだそうで、いかにしてゴルフができるように
仕事の段取りを組もうか、というほっこりするお話もありました。
文体も読みやすく、何より人間的な魅力に優れた本です。おすすめ。
ちなみに、広東料理と四川料理で火力が全然違うので同じ中華料理のお店といっても
必要な設備がぜんぜん違うということは勉強になりました(P.028)
印象的なくだり
実は、僕たち料理人の世界では、「段取り」はすべてのベースになっている。
料理をしようと思ったら、段取りが組めないと致命的だ。
一度でも料理をしたことがあればおわかりだと思うが、
複数の料理を同時に作ろうと思ったら、だいたいどういう手順で何をやるかを
考えてみるだろう。
「こっちでお湯を沸かして麺をゆでている間に、野菜を切っておこう」とか、
「煮込んでいるうちに、盛りつけのお皿はテーブルの上に並べて、
サラダも作ってしまおう」とか、そういう段取りを踏んでいるはずだ。
そもそも、「あの料理を作るためには、材料は何が必要で、
どれくらい時間がかかるか」なんてことを考えることも、段取りだ(P.8)。
このイベントから僕は担当者に任せるのではなく、
最終的に自分でチェックしなければいけないということを強く学んだ。
今回と同じようなミスを繰り返さないために、それ以来、
僕は受け入れ側にはわからないように、裏でもう一度チェックするようにしている(P.39)。
材料の魚(鮎)が足りなかったときのエピソード。
鮎が逃げてしまいました、とお詫びをするユーモアのあるなかに秘める気持ちと
裏方の人の気持ちを傷つけないようにする気遣いがステキ。
豆腐を入れることを例にしても、入れることは誰だってできる。
そこでドバっと入れてしまうのではなく、優しく入れるべきだし、
上達すれば素早くきれいに入れることができる。
それは見ていて格好がいいし、良い料理につながる。
包丁さばきなども、当たり前だが、練習次第でどんどん上達する。
刃先で切るのか、叩いて切るのか、押して切るのか――。
そういったことも練習を積むことで、自然と身体になじんでいく(P.88)。
「一流の料理人」とか、「一流のお店」という評価をよく聞く。
僕の中には、一流も二流も三流も存在しない。一流というのを決めるのはお客さまだ。
居酒屋の「へいらっしゃい!」という雰囲気が心地よければ、
それはその人にとって一流だし、ホテルの「いらっしゃいませ」という
雰囲気が好きならばそれが一流だ。
それはこちら側が勝手に判断することではないと思っている。
最高級の食器を使ってインテリアに凝っていれば一流なのかといったら、
そんなことは全然ないはずだ(P.115)。
入社して一年、二年までのスタッフたちには、あまり厳しく叱ったりすることはしない。
自分が仕事を始めた当時を振り返るとすぐわかるのだが、
この時期のスタッフたちは仕事を完全に把握できていないので、
叱りつけるよりも「気をつけような」「次がんばろうな」と声かけすることで、
やる気を持たせて成長してもらうことに期待をかけたほうがいい(P.159)。