『負動産スパイラル』

『負動産スパイラル』
姫野秀樹 乾比呂人

読後の感想
現役の不動産コンサルティング業経営者が税理士と組んで書いたポジショントークの本です。
ただ、経験値はとても豊富なようで、様々な(無知による)失敗事例が載っており
不動産業あるある本として、大変楽しく読むことができました。

何にでも当てはまりますが、不動産においては、とりあえず稼ぎたい勉強が嫌いな人はプロに頼むこと、
自分でなんとかやろう、最終形が決まっている人は勉強をしましょう。
生存バイアスでの成功例ばかり見ていたら、足元をすくわれますよ。

印象的なくだり

男性は、実子と養子がもめる危険性があることを予想して公正証書遺言作成を思いたちます。
問題はその作り方にありました。
男性は、公正証書遺言を作るのに、弁護士・司法書士ではない昔からの知合いに依頼したのです。
(中略)
結果として作成した公正証書遺言から土地の一部が漏れ、遺産分割をせねばならず、結局相続人の間で遺産分割協議をせざるを得なくなったのです。
(中略)
ちなみに、なぜ土地の一部が記載から漏れてしまったのかというと、公正証書遺言を作成する際に「土地の評価証明書」を取らずに「固定資産税の課税証明書」を公証人に渡したため、非課税だった土地が2筆漏れていたからでした(P.019)。

これは経験に裏打ちされた大変貴重な文章でした。
土地によっては非課税もあることは、一般の人はなかなか気付かないものです。
よくあるのが、私道として提供しているので「公共の用に供している」道のケースと
社会福祉法人等に無償で使用させているケースです。
(但し、非課税の土地の所有権をめぐる争いが起こるかどうかはまた別の問題)

「書面添付制度」とは、かいつまんでいうと、税理士が申告に際して計算、整理、相談に応じた事項を記載した書面を申告書に添付して提出することができる制度です。
書面添付されている場合は、税務署は、納税者の調査開始の問い合わせ(これを「事前通知」といいます)をする間に、添付書面に書いてある事項について、まず税理士から意見を聞かなければなりません。
この制度の主なメリットは、二つあります。
①メリット1:調査対象に選ばれにくくなる。
(中略)
②メリット2:税理士の意見を聞く機会が与えられ、税務署が納得すれば調査が行われない(P.050)。

だから、みんな税理士に頼もうね(はぁと)ということ、ですかね。

一次相続で、夫から資産を受け継いだ奥様の多くは、収支計算書や損益計算書の見方がわからない傾向にあります。というのも夫が生前、そういった数字のすべてを管理しており、見方を学んでいないからです。
数字の見方が分からない地主が悪質な業者から提案を受けた場合、たいていは誤った意思決定をしてしまいます(P.082)。

コンサルティングをしているとよくある質問なのでしょうね。
生きている間に、夫婦間ではきちんとお金の話しをしないといけないこと、
そして亡くなった後は、すみやかにどう処理するかを決めておかないといけないと強く感じました。

大家(地主、サラリーマン不動産投資家)向けに業者がマンションや商業施設を提案する際に持ってくる収益シュミレーションには、重大な欠陥があります。
業者が提示するシュミレーションには、重要な要素が抜け落ちていることが少なくないからです。
その要素とは、「所得税・法人税」と「住民税」です。
(中略)
業者の提案に税金が抜け落ちているのには、理由があります。
それは、業者は大家(地主、サラリーマン不動産投資家)の資産状況と収入状況がわからないので、大家(地主、サラリーマン不動産投資家)本人の税金を計算することはできないからなのです、
当然ですが、業者は提案する相手の資産・収入についての情報を持っていはいません。
そのため、提案物件に関する不完全なキャッシュフロー計算書(C/F)のみを提示してシュミレーションを行うことになるのです(P.138)。