『シカゴ育ち』
白水社
スチュアート・ダイベック, 柴田 元幸
読後の感想
短編集であり訳書なので、全体を貫いての感想は難しいのですが、敢えてあげるとするならば、とても透き通った文章が作り出す空気感でした。特にその特徴が顕著だったのは、「冬のショパン」です。寒さと音、そして閉塞感と希望がビンビンと伝わってくる(のを伝えられないのが残念ですが)文章は訳者のすばらしさ故でしょうか。
それから、ダイベックのシカゴへの郷土愛も十分に伝わってきました。よくありがちな故郷への過度の美化もなく、ダウンタウンの荒廃ぶりをそのまま受け入れるといった姿勢は、どこかしら大人の印象を受けました。きっと清濁併せ飲むといったところでしょうか。
おすすめは「冬のショパン」と「迷子たち」です。
印象的なくだり
名前っていうのは、人間が匂いの代わりに使うものなのよ(P108)。
若者は一人の女を失った。その女を探しに、ここにこうして降りてきたのだ。女を失って、彼は知った。永遠とは、何かがあることではなく、ないことなのだ(P136)。
「永遠とは、何かがあることではなく、ないことなのだ」
私も一番印象的なくだり、でした。
>okkoさんへ
同じところにひっかかっていたんですね。
それまで永遠って肯定的に捉えていたんですが、この響きは悲しくてどちらかというと否定的になりました。