『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』

『なぜ、町の不動産屋はつぶれないのか』
牧野知弘
祥伝社

読後の感想
お仕事に繋がる知識が増えるかな、と思って読みましたが、羊頭狗肉でございます。
土地の効用や、不動産投資、REITについて、初心者向けにかなり分かりやすく書かれているところは多いのに、キャッチーなタイトルのせいで、台無しです(全部で240ページあるのに、タイトルに関わる章は24ページだけ)。 端的にまとめると、土地の値段 は一定しない→売ったり買ったりの差額で儲けるのは大変→ならインカムゲインだ、大家業だ→でもメンテナンスや管理が大変→それなら、手間を省いて利得とれるREITがあるよ、みたいな流れ。で、著者は投資法人の社長さん、みたいなポジショントークが心地よいです。
収益還元法が価格決定において適正でないという趣旨のくだりは僕も同意ですが、余りにも唐突すぎて単にハゲタカファンドが嫌いだから書いただけなんじゃない?と邪推をしてしまいがちが構成に、思わず笑みがこぼれました。

金持ち父さん貧乏父さん、的な本が好きな方にはオススメですヽ(´o`;

印象的なくだり
土地の良い点というのは、他人やマーケットがどう言おうが、自分さえよければ自分なりの価値が享受できるということです。つまり中長期に持つ場合には毎年の公示価格などの「値付け」に一喜一憂するのではなく、土地そのものの持つ効用をしっかり享受していれば幸せ、と考えるべきなのです(P053)。

どんなに良い土地、あるいは価値のある土地であっても、その上に存する建物自体が古かったり、使い勝手が悪かったり、みんなが嫌悪するようなテナントや物質(建物に存在するアスベストや土壌汚染など)が存在すると、その不動産としての価値は低くなってしまいます。不動産の価値を判断するときに、プロでもときおり間違えてしまうのが、このポイントです。私のところにご相談にみえる方でも建物の汚さや古さにばかり目がいって、本当は素晴らしい立地であるのに、「築古ですから買いたくないですね」などとおっしゃる。逆に土地はそれ自体は価値が低いと思われるのに、とても立派な設備やおしゃれなデザインの建物だけに目がくらんで、「どうしてもこの物件が買いたいの」とおっしゃる方がいます。 不動産の本当の価値とは、建物ではなく土地にあると私は思っています。なぜなら建物は経年とともに劣化してしまう。どんなに素敵な建物でも設備は5~15年で会計上の価値はゼロになり、建築デザインに至っては流行のようなものですから、短いものでしたら2~3年で、なんでこんなダサいデザインが気に入っていたのだろうという、ファッションの世界のようなことが起こります。 土地に、時代による流行の関係ありません。もちろん立地自体の栄枯盛衰はありますが、存在そのものがなくなるということはありません。そうした意味では建物の存在というのは土地の持っている本当の価値を見えにくくする場合もあるということです(P062)。

日本列島改造論が流行った頃のように、日本全国一律に地価が上昇するような時代は、残念ながらもはや期待できません。国全体の人口が増え、産業が国内需要のみの中で発展・成長を遂げていくのであれば、全国一律の地価上昇もあるかもしれません。しかし人口が減少に転じ、経済全体が世界経済に深くつながってしまい、本来ドメスティックなマーケットだった不動産が、世界マネーという血液を注入したために世界経済の中に位置づけられてしまった現在の日本にあって、全国的な地価上昇を夢見ることは望めないのです(P080)。

俗に不動産業界では、この売買案件の仲介について、「せんみつ」という言葉を使います。つまり、1000件くらいの売買案件を取り扱ってやっと3件くらいの成約があるという意味です(P115)。

収益還元法の最大の欠点は、土地の持つ応用性、可変性を無視していることです。私が不動産への投資を判断するにあたってもっとも重視するのは、土地の持つ潜在的な力です。エクセルシートでは語れない部分での判断が重要なのです(P161)。

「いざというときは売却すればいい」と言えたのは、日本の人口が増え続け、経済が現在の中国のように右肩上がりで上昇を続けていた時代のお話です(P173)。

たいていの物は、嫌になれば抹消することができます。気に入らなくなった道具、サイズが合わなくなった服、壊れた冷蔵庫、動かなくなった高級車も、嫌になれば捨てればよいですし、昔は気に入らない人や民族はこれを殺したり、遠くに追いやることができました。 ところが、土地はどんなに気に入らなくとも、抹消することはできません。本当に嫌なら、自分がその土地から出て行くことしかできません。土地の前に人間の存在などは無力なものです(P229)。