『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』

『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』
ジェーン・スー

読後の感想
いまやTBSラジオの昼の顔ことジェーン・スーさんのブログを書籍化したものです。
いやぁ読ませる読ませる。ついつい引き込まれてしまう文章ですね、しかも小気味いいくだりが続きます。

全編を通して「そうきたか」と感じる文章ばかりですが
中でも両親との関係を書いた「母を早くに亡くすこと」は本当に響く、特に最後の文章は秀逸。

この人は自分自身の感情を観察して、名前を付けるのがうまい。
いわゆるメタ認知がとても上手な人なんだろうなぁと思う。
特にうまいと思った文章がこれ。

どんどん肥大する自己愛は飴玉が歯を溶かすように結婚欲を溶かしますが、私はそれを悪いとは言い切れない。
だって自分の力で切り拓く人生には、なにものにも代えがたい楽しさがあるからですから(P.102)。

タイトルにいい意味でだまされた一冊です。

「とあるゲームの攻略法」は考えもしなかった素晴らしいアイデア。

「ゲームを有利に進められるのは、ルールを熟知している人だ」
そうか、これはゲームなのか。
私の目から鱗が落ちました。
私はそれまで、自分が参加している「男社会で働く」というゲームのルールを、理解しようと努めた試しはありませんでした。
一生懸命やっていれば、報われると思っていました。
多数派ゲーマーである働く男の特性や、彼らの好みのゲームの進め方、そのゲームにマイノリティとして参加し思うように
ゲームを進める方法など、考えもしなかったのです。
道理で私はいつまで経っても、お仕事ゲームを攻略できなかったわけですよ(P.231)。

「ていねいな暮しオブセッション」に代表されるように造語のセンスも抜群です。

ていねいな暮しオブセッションとは、『暮らしの手帖』に体現されるような、正しい佇まいの暮らし方に取り憑かれること。
(中略)
物質的な豊かさよりも、精神的に豊かになることを尊び、「きちんと暮らす」ことに矜持を持つ。
ネオ清貧とでも言いましょうか、とにかく毎日をきちんと暮らすのです。
「過ごす」のではありませんよ、きちんと「暮らす」のです(P.016)。

印象的なくだり

A子ちゃんは旦那探しの合コンに週三回も参加しており、良いお相手がいない時は、
その会で知り合った男に必ず次の合コンをセッティングしてもらっていました。
それでもいい相手が見つからない時は、仕事帰りに女友達とPRONTOで飲んだりもしているとのこと。
全スペックにおいて同世代男の上位数パーセントに属する独身メンは、既に若い女とイチャコラやっており、三十を過ぎた自分は市場優位性に乏しい。
だから、平日の夜PRONTOで男同士飲んでいるような普通のサラリーマンを狙うのだそうです。
華やかな印象のA子ちゃんがPRONTOで飲んでいたら、そりゃ目立って声もかけられるよな。
私は彼女の戦略的思考に慄きました(P.037)。

私はよく「しっかりした人」と言われますが、それはあいまいな空気を漂わせたままにしておくことが苦手な、自信のなさの裏返しでもあります。
しっかりしていないとみっともなくはしゃいだり、みんなと一緒に場の空気に馴染んだりできなくなるのではないかという恐怖を、
私はいつもうっすら感じていました。
多少の発展を予感させる異性を前にすると特に、感情と役割の白黒をハッキリつけないと、息が詰まってその場にいることが耐えられませんでした(P.064)。

一世一代の大失恋をして知ったことは、失恋は親が死ぬよりもはるかに苦しいということでした。
なぜなら喪失感に妬みや恨みがトッピングされるからです。
大好きな人の不幸を祈るという、よくわからないパラドックスに日々熱心でした。
もうそこにないものに、ずっとず―――っと執着していた(P.138)。

女優やモデルとして活躍する、笑顔の可愛らしい女性から
「普段から口角を意識するだけで顔の筋トレになるので、意外と鍛えられます。
顔の筋肉が柔らかくなるだけで、笑顔はだいぶ違う」と、アドバイスを貰えました。
プロは笑顔の研究をし、日常生活から素敵な笑顔を心がけている。
彼女のプロ意識に感心していたら、女優でもモデルでもない友人までが「私も笑顔の特訓をしたことあるよ」と言うではありませんか。
おい、アマチュアも笑顔の練習をしているのかよ。
この友人曰く、彼女が高校時代にアメリカに留学する際に「言葉が通じないところでは笑顔が最大の武器だから、笑顔を練習したほうが良い」と
留学カウンセラーに言われたそうです。
彼女は私の友達の中でも、最高級の笑顔の持ち主。
それがまさか、練習の賜物だったなんて。いいえ、それ以上に、あの素敵な笑顔が練習で手に入るなんて!(P.150)。

商売は長距離走だけど、一年ごとの短距離走の繰り返しでもあります(P.172)。

ウェブサイトのユーザビリティ研究の第一人者と言われるヤコブ・ニールセン工学博士は、サイトの使い方をすぐ理解できる
「学習しやすさ」、一度使い方を覚えたら効率的に使える「効率性」、一度使ったらしばらく使用しなくても思い出せる「記憶しやすさ」、
「エラーの起こりづらさ、もしくは回復しやすさ」、楽しく使える「主観的満足度」の五つが使いやすいサイトの肝だと定義しました(P.188)。