『席を立たなかったクローデット』

『席を立たなかったクローデット』
フィリップ・フース作
渋谷弘子訳
原題
CLAUDETEE COLVIN-Twice Towards Justice
Phillip Hoose
読後の感想
公民権運動のきっかけといえばバスの黒人白人問題が有名ですが
その当事者はローザ・パークスだけだとばっかり思っていました。
ただ、よく考えていたらあくまでもローザ・パークスは象徴的な一事件であり
その影にはかなりの暗数の存在があったのだろうと予想できます。
本書の主人公、クローデットはその最初の一人と言われているそうです。
しかし、黒人のティーンでしかも妊娠して高校をドロップアウトするなど
公民権運動のシンボルとしてふさわしくないとして闇に葬られていたということです。
白人黒人のくだりは、映画「ドリーム」(原題:Hidden Figures)の中でも出てきます。
使えるトイレが違う、バスの座席が違う、公園の飲み水も違う、挙句の果てに参加できる葬式まで違うのです。
「COLORED PASSENGERS」(黒人の乗客)と書かれたバスの車内の写真はまさにそのものです。
いまでこそ差別的だという感情が当たり前に起こりますが、当時はなんともない写真だったでしょう。
ちなみにクローデットが裁判を受けるときの後援としてマーティン・ルーサー・キング・ジュニアが選ばれています。
いわゆるキング牧師の公民権運動の第一歩がクローデットとの関わりだとのことです。
本書は、とても分かりやすく簡単に書かれています。
読んだあとは、いまからたった数十年前にあったことを、次の世代にもつなげたい、という気持ちでいっぱいになりました。
印象的なくだり
黒人を差別する法律の中には黒人の暮らしにたいした影響をおよぼさないものあったが、バスはちがう。
(中略)
たいていの黒人はバスに乗らないわけにはいかなかったのだ(P.011)。
白人ひとりをすわらせるために、その列にすわっている四人の黒人を全員立たせる。
運転手はちらっと目をやって、「そこの列、席をゆずってくれ!」と大声をあげる。
四人を席を立ってさらにうしろに行かなければならない。
その四人が老人だろうと妊婦だろうと病人だろうとひざに子どもをかかえている人であろうとおかまいなしだ。
一九〇〇年に制定された市バス法-市の規則なので、正確には市バス条例-には、空席がなければ乗客は席を立つ必要はない、と決められていたが、そんなこともおかまいなしだ。
運転手は条例を無視しつづけ、運転手の命令ひとつで黒人が席を立つ慣習ができあがった。
運転手は「立て」と言えば黒人は立つものと思っていたし、命令された黒人も実際に席を立った。
うしろに空席がなければ、それはその黒人に運がなかったまでのことだ(P.013)