映画『シャイロックの子供たち』

映画『シャイロックの子供たち』を鑑賞しました。
銀行を舞台にしたクライムエンターテイメントで、主演の阿部サダヲが持つ独特の存在感が作品のトーンを変えているのが印象的です。
現実味が強くシリアスな設定でありながら、阿部サダヲの演技によって硬派な雰囲気が和らぎ、ある種の軽妙さが加わっています。このキャラクターの存在が、金融サスペンスでありながらもエンターテイメント性を高め、物語全体に親しみやすさを与えていました。

物語は銀行内で発生した現金紛失事件をきっかけに進行します。内部の過去の横領や不正が明らかになっていく展開は、銀行という清廉さを求められる職場の裏に潜む人間の欲望がリアルに描かれています。
しかし、単純に「お金が欲しい」という動機ではなく、登場人物の欲望が競馬に集中しているのが面白いポイントです。このギャンブルの執着が、人物の動機を記号化し、軽妙さを漂わせていて、観客もどこか滑稽な印象を受けてしまいます。金銭目的が絡む犯罪でありながら、どこか風刺的でユーモラスな雰囲気が感じられる点は、本作の特徴と言えるでしょう。

また、タイトルにある「シャイロック」は、シェイクスピアの『ベニスの商人』に登場する高利貸しのキャラクターです。この設定により、金融業に携わる人々が金銭を巡る冷徹さと無情さを内包する職業であることが暗示され、観客は銀行員たちが心の奥底に抱える「シャイロック的」な性質を見出します。銀行員の仕事の中でお金が絡む事件が発生することで、彼らが抱える葛藤や欲望も浮き彫りにされ、シェイクスピアの原作のテーマと重ね合わせた皮肉が込められているように感じました。

一方で、設定には少し「?」と思う点もあります。ヤミ金が契約書を作成するシーンや、銀行が抵当権抹消登記に必要な印鑑証明書の期限を切らしてしまう場面など、現実の銀行業務を知る人には不自然さが目立ちました。ヤミ金が契約書を交わすのは現実離れしていますし、銀行が重要書類の管理でミスをするのも通常ではあり得ないことです。こうしたリアリティの欠如は一部観客にとって気になるかもしれませんが、エンターテイメントとしてフィクションの自由を楽しむ要素として見ることもできます。

本木克英監督は、これまでも『超高速!参勤交代』や『釣りバカ日誌』シリーズといった幅広いジャンルの作品で知られており、ユーモアと人間ドラマを融合させる手腕に長けています。社会の中で人々が抱える葛藤や人間関係の微妙な機微を描くことに定評があり、本作でもその持ち味が十分に発揮されています。銀行という堅い世界を舞台にしながらも、コミカルさや人間らしさが随所に散りばめられているのは、本木監督ならではの演出力といえるでしょう。

総じて、『シャイロックの子供たち』は、銀行内部の事件を通して人間の欲望や利己心が描かれる一方で、阿部サダヲが演じる主人公の存在が作品を軽妙に仕上げており、重苦しいだけではない、エンタメ性の強い作品となっています。銀行業務のリアルさに一部違和感があるものの、その分映画的な楽しさを優先した作りとなっているため、観客を飽きさせることなく引き込む魅力が感じられました。本木監督の過去作と比較しながら観ることで、さらに作品の奥深さとユーモアを味わえる一作だと思います。

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『「100万円戸建て」からはじめる不動産投資入門』

読後の感想
黒崎裕之著『「100万円戸建て」からはじめる不動産投資入門』は、これから不動産投資を始めようとする読者に向けた実践的なガイドブックです。
著者は不動産の購入から修繕、管理、そして売却に至るまで、投資の基本的なステップを分かりやすく説明しながら、特に初心者が陥りがちな「分析マニア」「勉強マニア」と呼ばれる過度な勉強の罠を指摘しています。本書では、不動産投資の成功に必要な要素として、「まず買うこと」に集中する重要性を強調しています。
よくわからん大家さんのセミナーに行くよりは、1650円の本で同じことが書いてある本書の方が圧倒的に優れています。

最も印象的なのは、不動産が「変化に強い」投資対象であるという点です。
株式市場が急変した場合、株価が大きく下落するリスクがあるのに対して、不動産は急激に価値がゼロになることは稀であり、特に住居系不動産は生きるために必要不可欠であるため、安定的な収入源として有望であることが説明されています。

また、本書のタイトルにもある「100万円戸建て」という低価格物件を利用した投資手法は、読者に「安く買うこと」の重要性を説いています。
タイトルの付け方、人目を引くキャッチーな方法は非常にうまいですね。さすがです。
不動産投資で収益を上げる方法は複数あるものの、戸建て投資においてはまず最初に「安く買う」ことが成功の鍵であり、これができなければ大きな利益を上げることは難しいと著者は語ります。
修繕や管理の費用は当然発生しますが、初期投資の抑制がその後の収益性に大きく影響するという実践的なアドバイスが具体的に示されています。

不動産投資のリスクとメリットを丁寧に解説し、特にこれから始めようとする人々にとって有益な知識を提供するこの一冊は、慎重な投資計画を立てつつも、まず一歩踏み出すことの重要性を読者に強く伝えています。
著者自身の経験に基づく実例や具体的なアドバイスが随所に散りばめられており、リアリティのある学びが得られるでしょう。

ただ、注意点として「100万円では済まない」ことだけは強調しておきます。
「100万円」というのは不動産の売買価格であり、仲介費用、登記費用、登録免許税、不動産取得税、リフォーム費用と全部合わせると倍以上になるので注意が必要です。

印象的なくだり
あらゆる変化に強い
不動産投資のもう一つの魅力は「変化に強い」ことです。
コロナショックのようなパンデミックや、かつてのリーマンショック並みに未曾有の経済危機が起こった場合、株価は大幅に下落したり、場合によっては投資した会社が倒産して紙切れになるリスクもあります。しかし、不動産はいきなり家賃が半額になったり、物件の価値がゼロになったりはしません。現在、コロナショックの影響でテナント系の不動産は売上が落ちていますが、住居系には大きな変化はありません。それは、生きるのに必要不可欠だからです(P.090)。

集中すべきは買いの1点のみ
不動産投資で成功するためには、まず「買い」に集中しましょう。
というのも、不動産投資では管理や修繕、売却など勉強することがたくさんあるため、買いに集中しないと力が分散して、いつまで経っても買えずにスタート地点にすら立てない人を多く見てきたからです。
不動産投資初心者には「分析マニア」「勉強マニア」と呼ばれる方々がいます。彼・彼女たちは勉強熱心ではあるものの、いつまでも実践に移せず、物件を購入できないまま何年も経ってしまう人たちのことです。勉強は大切ですが、それに何年も要しているのであれば、精神的に負担にならない金額でまず買うべきです。買わなくては何もはじまりません(P.108)。

安さこそすべてのソリューション
不動産投資で収入を伸ばすための方法は5つあります。
「安く買う」「安く修繕する」「高く貸す」「高値で売る(購入してすぐ売るのではなく、数年所有しての売却を指します)」「税金対策をする」です。ただ、戸建て投資において一番重要なのは、何より「安く買う」が大前提です。ここを失敗すると、大きく儲けるのはかなり難しいといえるでしょう。たとえば「安く修繕する」でいうと、古い物件は修繕しなくては人が住めません。
また、管理会社も新しくてきれいな物件のほうがトラブルになりにくいので、できるだけ修繕をするように言います。これは私の経験上間違いありません(P.124)。

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『サクッと分かるビジネス教養東南アジア』

『サクッと分かるビジネス教養東南アジア』

『サクッと分かるビジネス教養 東南アジア』は、東南アジアに関わるビジネスパーソンに向けて、地域全体の文化、経済、歴史などを分かりやすく解説する一冊です。
この地域に出張する機会の多い現代のビジネスパーソンにとって、東南アジアの国々は多様な文化的背景や社会制度を持つ魅力的な市場であり、この本はそのような背景を理解するための手助けとなるでしょう。
著者は、地理的、宗教的、経済的な視点を通して、東南アジアを総合的に捉え、読者が実務で役立てられる知識を提供しています。

出張の際の服装の重要性
まず印象的だったのは、東南アジアでのビジネスマナーに関する具体的なアドバイスです。
特に「出張の際の服装」についての記述(P.027)は、日本人ビジネスパーソンにとって参考になる内容です。熱帯地域である東南アジアでは、エアコンが効いた室内で働くことがステータスとされ、現地のビジネスマンはジャケットやネクタイを着用することが一般的です。
これに対し、日本からの出張者が半袖のシャツ一枚で訪れると、場違いな印象を与えかねないという指摘は、ビジネスシーンにおいて軽視できないポイントです。
私は東南アジアには旅行者としてしか行ったことがないのですが、確かに官庁街(特にベトナムのハノイでは顕著だった)では、靴を履いている人=エリートという感じでした。

このような細やかな服装の配慮は、単に見た目の問題だけでなく、ビジネスマナーの一環としても非常に重要です。
現地の文化や習慣を尊重し、その場に適した服装を選ぶことは、相手に対するリスペクトを示すことに繋がります。
特に、初めてビジネスで東南アジアを訪れる際には、事前の確認を怠らないことが重要です。
この本は、そうしたビジネス文化の違いを具体的な例を挙げて説明しており、読者が実際のビジネスシーンで役立てやすい知識を提供しています。

東南アジアにおける仏教の影響
次に、東南アジアにおける宗教の影響も詳しく説明されています。
特に仏教に関する章(P.032)は、東南アジアの文化的背景を理解する上で重要です。
インドで生まれた仏教が、ブッダの没後に大乗仏教と上座部仏教に分かれ、それぞれが異なる地域に広がっていった過程が簡潔にまとめられています。
大乗仏教が中国を経由して日本やベトナムに伝わった一方で、上座部仏教はインドから東南アジアの国々に広がりました。

特に上座部仏教の影響を強く受けた国々では、出家や修行が非常に一般的な慣習とされています。
黄衣をまとった修行僧が托鉢をする光景は、東南アジアの街中で頻繁に見られる風景であり、これは地域の宗教的、精神的な価値観を象徴するものです。
こうした宗教的背景は、ビジネスにおいても重要な意味を持ちます。
例えば、僧侶や宗教施設への接し方など、現地の宗教的感情を理解し尊重することが、ビジネス関係を良好に保つために必要です。私も旅行中に見た電車やバスの中で「僧侶ファースト」と記載され、敬意を払っている様子を見受けました。少なくとも他国の人が敬意を払っているものに対しては、軽んじることは避けるべきですね。

さらに、仏教が個人の修行や救済を重視する上座部仏教の影響は、ビジネスマインドにも反映されているかもしれません。
個々の努力や自己規律が重んじられる社会では、自己成長や責任を重視する文化が育まれており、これが現地のビジネス習慣や仕事の進め方にも影響を与えている可能性があります。
東南アジアでのビジネスを成功させるためには、こうした宗教的・文化的背景を深く理解し、適切に対応することが求められるのです。

インドで生まれた仏教は、ブッダの没後、大乗仏教と上座部仏教に分離しました。多くの人が救われることを理想とする大乗仏教に対し、上座部仏教は個人が修行をして自力で救済されることを理想とします。大乗仏教は、中国に伝わり、朝鮮、日本、ベトナムに伝来。上座部仏教は、インドから南東方向に伝播しました。上座部仏教の国では、多くの人が「一度は出家・修行すべきだ」と考えており、黄衣をまとった修行僧が托鉢をする光景が、街中で見られます(P.032)。

教育の格差と識字率
東南アジアの教育に関する章も、非常に興味深い内容です(P.046)。
多くの国で識字率が90%を超えている一方で、依然として教育の格差が存在しており、教員や学校の不足が経済成長の足かせとなる可能性が指摘されています。
具体的な識字率のデータを挙げることで、各国の教育レベルの差が浮き彫りにされています。

例えば、ベトナムやタイの識字率が90%を超えている一方で、ラオスやカンボジア、ミャンマーでは80%前後、東ティモールでは68.1%と、国によって大きな差があります。
これらの違いは、経済発展や産業の発展にも直結しており、ビジネスパーソンが東南アジアで事業を展開する際に無視できない要素です。
識字率が低い国々では、労働力の質や教育レベルに注意を払う必要があり、それが事業戦略にも影響を与えるでしょう。

また、この教育格差は、東南アジア全体が経済的に発展する中で、国際的な競争力に影響を与える要因ともなります。特に、技術革新や情報化が進む現代において、教育の普及とその質の向上は、各国がグローバル市場で競争力を保つために不可欠な要素です。この本を通じて、東南アジア各国の教育状況を把握することは、ビジネスの戦略を立てる際に非常に有用です。

参照として、ユニセフの統計データです。
「表11:教育指標」に識字率があります。2023年はラオスは「データなし」になっていますが、、、。

ASEANとその課題
ASEAN(東南アジア諸国連合)の役割とその特異な運営方式「ASEAN Way」に関する章も、非常に読み応えがあります(P.075)。
ASEANは東南アジアの政府間組織で、10カ国が加盟しており、年に2回の首脳会談や閣僚会議を通じて、経済や軍事、教育など幅広いテーマについて協議されています。
ASEANの特徴は、全会一致や内政不干渉を原則とする緩やかな協力体制です。
この「ASEAN Way」は、加盟国が対等であり、他国の内政に干渉しないという原則に基づいています。
このため、文化的・政治的に多様な国々が協調し合うための柔軟な枠組みとして機能しています。し
かし、全会一致が必要なため、たった一国の反対で意思決定が遅れることもあり、時には機能不全に陥るリスクも指摘されています。
たとえば、2006年に軍事政権下のミャンマーが議長国となった際には、人権侵害を問題視した欧米諸国がASEANとの会合をボイコットする事態が発生しました。
この例は、ASEAN Wayの限界を浮き彫りにしています。
ASEAN Wayは、一見して柔軟で協調的な制度ですが、国際的な圧力や加盟国間の政治的対立が生じた際には、その緩やかさが足かせとなることもあります。
しかし、文化や歴史、政治体制が異なる国々が協調していくためには、こうした緩やかなルールが不可欠であるという現実もあり、ASEANがどのようにしてそのバランスを維持していくかが注目される点です。

メコン川を巡る地政学的問題
最後に、メコン川を巡る地政学的な問題(P.087)も、東南アジアの国際関係を理解する上で重要なトピックです。
メコン川は、東南アジア大陸部の5カ国(ベトナム、カンボジア、ラオス、タイ、ミャンマー)にとって、農業や漁業のための重要な水源です。
しかし、近年、中国がメコン川の上流に次々とダムを建設しており、その影響で下流域の水位が低下し、淡水漁業や農業に深刻な被害をもたらしています。

この問題は、東南アジアの国々が共同で水資源管理を行うために設置されたメコン川委員会でも解決が難しい問題となっています。
特にラオスは多くの支流を持ち、水力発電に有利な立場にありますが、中国との関係が複雑化しているため、これが地域全体の経済的安定にも影響を与える可能性があります。こ
うした地政学的な問題は、単に環境問題にとどまらず、地域全体の経済や安全保障にも関わる重要なテーマです。

国際河川であるメコン川でのダム開発には、メコン川委員会での関係国との利害調整が必要です(事実上不可)。支流を多く持つラオスが水力発電で有利なのはこのためです。同委員会に入っておらず、上流にダムを次々と建設する中国(P87)は、ラオスをはじめメコン川中下流域国との関係を複雑化しています。
ラオスは5ヵ国に囲まれた国です。カンボジアと同じく親中国であり、ラオスと中国の間には高速鉄道が建設されています。同じ社会主義国であるベトナムを、発展を成功させた兄貴分として慕っている一方、民族的に近く、相互に言語が通じるタイとの関係は、ベトナムほどではありません(P.133)。

ラオス人民軍博物館を訪問したときに、ラオス独立の歴史の展示を見てきました。そこにはベトナムの国旗があちこち飾られており、ラオスとの密な関係性が伺えました。
特に、独立時に支援してくれたベトナムとは、日本的な用語を使えば「苦楽を共にした」感じになるのかもしれないですね。
とはいえ、ホーチミンルートの関係で大量の地雷を残されたラオスとしては愛憎混じった複雑な感情なのかもしれません。

まとめ
『サクッと分かるビジネス教養 東南アジア』は、東南アジアの多様性を理解するための非常に有用なガイドブックです。ビジネスパーソンに必要な知識を幅広く提供し、文化的背景や歴史、経済状況を通じて、東南アジア各国とのビジネス関係を成功させるための視点を与えてくれます。特に、出張時の服装や宗教的背景、教育や政治の問題、環境資源に関する課題など、具体的な事例を挙げながら、読者が現地で直面する可能性のある問題に備えることができるようになっています。

この本を手に取ることで、東南アジアにおけるビジネスチャンスを最大限に活かすための準備が整うでしょう。地域の複雑な問題を理解し、適切な対応をするための第一歩として、この本は非常に価値ある一冊です。

どっとはらい

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『不思議の国のラオス』

『不思議の国のラオス』森山明著

読後の感想
森山明さんの『不思議の国のラオス』は、ラオスの歴史、文化、そして現代社会を多角的に捉え、独自の視点から紹介している一冊です。この本を通して、著者はラオスという国の魅力を丁寧に伝え、その中に深い洞察を垣間見せています。

特に、フランスの凱旋門を模した「パトゥーサイ」の建造物についての考察が印象的です。なぜ植民地支配からの解放を目指して戦ったラオス人が、かつての宗主国の象徴的な建物を模倣したのかという問いは、ラオスの歴史の複雑さを象徴しています。ラオス王国がパトゥーサイを建設した背景には、国際社会や植民地主義との関係を超えたラオス独自の歴史的文脈があることが示されています。

この通りの東北端には、パリのエトワール凱旋門を模した戦没者慰霊塔のパトゥーサイが聳えています。パトゥーサイは、エトワール凱旋門の様式を模しているばかりでなく、ラオス語のパトゥーサイは、文字通り「凱旋門」を意味するのです。現在の社会主義国家を建国したラオス人の先人たちは、半世紀を超えるフランスの植民地支配に抗して激しく戦いました。そのラオス人が、なぜかつての宗主国フランスの建造物を真似たパトゥーサイを造ったのでしょうか?答えは、パトゥーサイを造ったのは現政権ではなく、一九七五年に現政権に倒されたラオス王国の政府だった、ということです(P.034)。

また、ビエンチャンの通りに名付けられた王様の名前やその象徴性についても興味深い考察が展開されています。単に政治的な名付けではなく、ラオス国民の感情や歴史に根ざした柔軟な政治的知恵が働いているという点は、現代ラオスの国民性や政府の姿勢を理解する鍵となります。
さらに、著者はラオスの国旗に込められた象徴についても触れ、メコン川に昇る月が50の民族の連帯を示していると説明します。これは、ラオスが多様な民族で構成されている国家であることを強く意識させる描写であり、ラオスのアイデンティティの多様性を浮き彫りにしています。

総じて、ラオスでの体験を振り返り、「何がラオスにあるのか」という問いに対して、著者は「光景の記憶」を挙げています。この「匂い」「音」「肌触り」といった感覚を通して得られる旅の本質が、ラオスの魅力の一つであり、効率や成長を追求する現代社会が忘れ去った何かが、ラオスにはまだ存在しているというメッセージが強く心に響きます。
(村上春樹の「ラオスにいったい何があるというんですか」を強く意識した記述で、ニヤニヤしながら読みました)

逆に日本がラオスから学ぶものとしてジェンダーギャップの点がありました。

世界経済フォーラムが実施する「ジェンダーギャップ指数二〇一八年」で、経済大国の日本は〇・六六二で、149か国中の110位という不名誉な位置でした。一方、国連から後発開発途上国に分類されているラオスは、同〇・七四八で、26位でした。日本は、ラオスに対して、過去に大きな経済支援をしてきましたし、今でもしています。そのことは、大変に結構なことなのですが、こういう国家の関係にあると、自戒を籠めて書くのですが、個人としての日本人までがラオスに対して上から目線になりがちです。現在、日本政府は、「女性が輝く社会」の実現を最重要課題の一つに掲げています。たとえば女性の社会的な活躍のための環境造りについて、ラオス人から知恵を借りる、なんていう謙虚な気持ちが日本の政府や日本人にあっても、罰は当たらないのではないでしょうか(P.186)。

総じて、この本は、ラオスという国を単なる観光地としてではなく、歴史や文化、社会の多様な側面を含む豊かな国家として描いており、森山氏の丁寧な取材と深い洞察が詰まった一冊です。ラオスを理解し、そこから何かを学ぼうとする読者にとって、多くの示唆を与えてくれることでしょう。

という真面目な文はさておき、この方に一番共感をいただいたのは、タイトルの言葉遊びです。
あちこちに散りばめられた本歌取り的な引用、パロディが読んでいてこころくすぐられます。
但し、在ラオス当時はJTBの人らしく、旅行ガイドがメインになっているのはご愛嬌です。

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印象的なくだり
ビエンチャンの大通りを見てきて、あらためて、ラオス政府が王国や王様の名を大通りに付した理由を推測してみましょう。見てきたように、通りの名として付されたのは、ラオス初の統一王朝の名称と、その創始者の王様、また、統一王朝の権力基盤を強化した王様、そして、統一王朝の隆盛期を築いた王様の名でした。さらに、銅像となった王様としては、ラーンサーン王国が分裂してできたビエンチャン王国の、シャム国に反攻した英雄王と、第二次世界大戦の末期に、植民地帝国フランスからの独立を宣言したルアンパバーン王国の王様でした。人民路、解放路、建国路、中山路というような、上からかぶせるような政治色の強い命名よりも、国民感情に訴えるような命名を、ラオス人民民主共和国政府は、選んだのでしょうか。そうであるならば、それはそれで、ラオス政府の柔かな政治的知恵と言えるかもしれません。まあ、ラオス人のある種のナショナリズムの発露だとも言えるのでしょうか。すべては、ラオスにとってはよそ者の私の手前勝手な推測です(P.037)。

ラオス人民民主共和国にとって、月には特別な意味があるのです。ラオスの国旗をご覧ください。一九七五年に人民民主共和国として建国したラオスの国旗です。上下の赤い帯には、幼争で自由を勝ち取るために流された人々の血の色を、また、青い帯には、メコン川と川に育まれた豊穣を象徴させ、そして、中央の白丸には、メコン川に昇る月によって五〇の民族の連帯を象徴させました(P.040)。

ビエンチャンにいた頃に読んだ英字紙の『ビエンチャン・タイムズ』に、二〇一七年六月時点でのビエンチャンを走るトゥクトゥクの数が三四〇台だと載っていました。これが多いのか少ないのかは何とも言えませんが、少なくともビエンチャンの中心部を歩いている限り、主要な寺院を含む観光スポットや大通りの角に客待ち停車するトゥクトゥク、そして、空で走っているトゥクトゥクがいつでも掴まえられるので、何分も待つことはほとんどありません(P.065)。

ビエンチャンの名を聞けば、ラオスの首都を思い出します。しかし、行政上は、首都ビエンチャンと、その北側に広がるビエンチャン県の二つの区域に分かれています。ビエンチャン県は、首都ビエンチャンとは違って、山あり湖あり川ありの、田園が広がっています。首都の住民たちは、週末になると、日帰りで、あるいは一泊で、家族や友だちと連れ立ってビエンチャン県に向かいます。そんなビエンチャン県の見どころをいくつか紹介します(P.092)。

ラオスから帰った村上は、「ラオスにいったい何があるというんですか?」という問いに対する明確な答えを持ち得ていません。しかし、いくつかの光景の記憶だけは持ち帰りました。そして、その光景には、「匂いがあり、音があり、肌触りがある。そこには特別な光があり、特別な風が吹いている。何かを口にする誰かの声が耳に残っている。そのときの心の震えが思い出せる」のでした。村上は、これこそがまさに旅ではないか、というのです。
どうもラオスを訪れることの魅力というものは、村上のようなやり方でないと伝えられないのか、という気がしてきます。高度に経済成長を遂げた日本という国に住む私たち、スピード、効率、競争、成長で気を休めるいとまのない私たちと私たちの社会が、どこかに置き去りにしてしまった何ごとかが、ラオスにはまだ残っているのだ、と言いたくなります(P.104)。

ラオスは多くの民族で構成される国家です。国家が正式に認めているだけでも、五〇の民族が存在します。そして、その民族の分類の仕方に、居住空間によるものがあります。『ラオスを知るための60章」(明石書店)によれば、「ラオ・ルム(低地ラオ)、ラオ・トゥン(山腹ラオ)、ラオ・スーン(高地ラオ)である。(中略)この区分が人々の居住空間や生活様式、生業の多様性をうまく説明しているからである」なのだそうです。
さて、ラーオ・ルムは、ラオスの人口の過半数を占めるラーオ族に代表され、ビエンチャン、ルアンパバーン、サワンナケートなどのメコン川沿いの河岸平野に開かれた町とその周辺に住んでいます。一四世紀半ばにラオスを統一して、ルアンパバーンにラーンサーン王朝を開いたのも、ラーオ族でした。また、ラーオ・トゥンは、ラオスの先住民といわれるモン・クメール系語族に代表され、山の頂と河岸平野との中間の地域に住んで、焼き畑を行ってきた森の民です。北部の各県で多数を占めるクム族は、このグループに属します。そして、ラーオ・スーンは、モン族に代表されます。歴史的にラオスの地にもっとも遅れてやって来た人々で、他の民族がまだ住んでいなかった山の奥深くや頂近くに住んで、焼き畑で生活してきた山の民でした(P.180)。

まずは、近代史におけるモン族の役割ですが、第二次世界大戦が終わって、日本軍がインドシナ半島から撤退した後、ラオスを再度植民地化したフランスと、ベトナムを後ろ盾にして独立を求める勢力の間で戦闘が始まりました。その時フランスは山岳戦に秀でたモン族の若者を訓練して、対独立勢力の戦闘に投入しました。そしてフランスの撤退後は、インドシナ半島の共産化を阻止せんとしたアメリカがモン族の戦士たちを引き継ぎ、ラオスの左派軍や北ベトナム軍と戦わせたのでした。モン族の勇敢な戦士たちは、ラオスの主に北部の山岳地帯戦で勇戦しました。二十数年に渡る戦いで、「推定三万人ものモン族が死んだが、それはラオスのモン族人口の一〇%以上だった」そうです(P.182)。

マス・ツーリズムの喚起策として、売るべきものをルアンパバーンの魅力に絞ったのはよいのですが、マス・ツーリズムの販売促進は、総じていえば、お金がかかります。マスのマーケットに向けて、観光魅力を精一杯の方法で広報・宣伝していかねばなりません。ところが、国連から後発開発途上国、すなわち経済的な「貧困国」に認定されているラオスは、観光促進に投ずることができる予算が、きわめて限られているのでした。二○二○年までに後発開発途上国から脱するという最重要目標を掲げるラオス政府にとって、観光産業は極めて大切な産業です。なぜなら、外国人観光客がラオス国内で消費する金額は、ラオスの輸出産業の中で、銅を主とする鉱物資源の輸出、水力発電によるタイなどへの売電に次いで、三番目に大きいのです(P.191)。

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合格体験記:第2種衛生管理者試験

第2種衛生管理者試験

【総論】
第2種衛生管理者試験は、日本の労働安全衛生法に基づき、企業内で労働者の健康と安全を守るために必要な資格です。
試験会場を調べたところ、地方では試験が年に1回しか開催されないことが多かったのです。
一方、東京や大阪などの大都市圏では毎週のように試験が開催されていました。
地方に住んでいる私は受験のチャンスが少ないかなと思っていましたが、ちょうど夏休みのラオス旅行の際に東京で空港移動(羽田から成田)があることを思い出し、東京で試験を受けることに決めました。
しかし、その決断が、私にとっては非常に厳しい試験勉強のスタートとなりました。

勉強時間の確保に苦労
仕事が非常に忙しい時期に差し掛かり、勉強時間を捻出することが最も苦しい課題となりました。
1日30分の勉強時間を確保することさえ困難で、土日も仕事が入ってしまうため、まとまった時間を勉強に充てることができませんでした。
初めのテキスト読み込みは、1日2章進めるのが精一杯で、テキスト一冊を読むのに17日もかかってしまいました。
このペースでは合格が難しいと感じ、次第に焦りが募りました。

インプットとアウトプットのバランス調整
テキストの2周目に入ったときは、ようやく内容が頭に入りやすくなり、テキスト一冊を7日で読み切ることができましたが、依然としてアウトプット、つまり問題演習に十分な時間を割けないことが不安材料となっていました。
過去問演習に入る頃には、試験日までの時間が迫っており、焦りとプレッシャーが増していきました。

模擬試験での挫折
試験の12日前に過去問を試験形式で解いてみたところ、関係法令で3点/10点、労働衛生で6点/10点、労働生理で5点/10点で合計14点と、合格ライン(18点)には程遠い結果でした。
この時点で、合格は「ちょっと無理」だと感じました。
しかし、諦めるわけにはいかず、毎日すきま時間を必死に捻出し、過去問の解説を読み込み、間違えた箇所を中心に復習を繰り返しました。
結局試験勉強はやるしかないんで、やりました。「超」やりました。

ようやく合格点が見えてきた
試験1週間前の8月15日には再度過去問を解き直し、なんとか合格ラインに達する点数を取ることができました。
しかし、確実に合格できる、まで道のりは険しいものでした。
試験3日前の8月20日と試験当日にも過去問に取り組み、ようやく自信が持てる回答だけで合格点が取れるようになってきました。
結局実務の試験は、合格すればいいというものではなく、その後の実務で使えるレベルの知識がないといけないと感じていました。

合格を目指す人へのアドバイス
試験に合格するためには、計画的な勉強と復習が重要です。
特に、法令部分は自身の会社に当てはめて考えると理解が深まります。
また、過去問の反復演習と復習に時間をかけることで、自信を持って試験に臨むことができます。
最後に、試験は「基準点に達した人全員が合格する」絶対試験ですので、自分のペースで着実に学習を進めてください。

また試験勉強での最大の敵は、時間との戦いです。
特に仕事と両立させる場合、計画通りに進めることが非常に難しいです。
しかし、どれだけ厳しい状況でも、最後まで諦めずに粘り強く取り組むことが重要です。
私は何度も挫折しそうになりましたが、過去問を繰り返し解き、理解を深めることでなんとか合格することができました。
合格を目指す方も、時間の制約があっても諦めずに挑戦し続けてください。

【各論】
時系列集(思いつきから受験まで)

思いついた日は2024年7月15日。
試験会場を調べると、東京はほぼ毎週のように開催されているが、地方は年に1回とか開催が非常に少なくて愕然。
じゃあ試験を受けるためだけに東京に行く、ほどのモチベーションがあるか、と思うとそれもちょっと微妙。
しかし、夏休みとしてラオスに行く際に、小松から羽田、そして成田を経由するルートにのれば、途中で東京で試験を受けられることに気づく。
というわけで、すぐに出願し申し込んでから勉強を開始した。

使用したテキスト
書店にはテキストがいくつかあったので、読みやすさ、アウトプットとしての問題がついているかどうか、の観点で、一冊選んだ。
TAC出版、「スッキリわかる衛生管理者第2種」堀内れい子

具体的な勉強方法
やはり王道としては「テキストを読む」>「問題を解く」のインプットとアウトプットの流れで進めました。
試験問題は選択式、合格基準は「科目別最低点(足切り)」と「合計得点」で、相対試験ではなく絶対試験です。
つまり、「上位何人が合格する」試験ではなく「基準点に達した人全員が合格する」試験だということです。
勉強計画を立てた段階では、インプットとしてテキスト読み込みは2周し、1周目は大枠を掴むため理解中心でさらっと読み、2周目は暗記を中心にきちんと時間をかけました。
また公表されている過去問が少ないため、本番と同じ環境で過去問題をといて、全ての選択肢について、正誤判定をしていく、という方式をとりました。
つまり過去問は問題を解く時間よりも、解説を読む時間、暗記をする時間を多く取るようにしました。
実際に問題を解いてみると、あやふやな知識が原因で間違えることも多かったため、その際にはテキストに戻ってきちんと正しい知識を覚えるようにしました。

インプット期
受験申し込みをしてから本格的な勉強を開始しました。
このころ仕事がめちゃくちゃ忙しい時期で、1日30分を捻出するのもしんどい時期だったし、土日も当然のように仕事をしていました。
そんな状態のまま勉強してても、正直言ってなんとなく読んでいた感じだった。
1日2章くらいしか読み進むことができず、テキストを一回りするのに17日くらいかかってしまった。
それに比べて、2周目はわりとサクサク読めたので、テキスト一回り7日で読み切りました。
この期間がインプット期です。

アウトプット期
インプット期の後半から問題を解くいわゆるアウトプットも始めました。
過去問はテキストに別冊でついていたもの1年分と、「一般社団法人新潟県労働衛生医学協会」が公表しているものを使いました。
https://www.niwell.or.jp/education/labor/exam.html

なぜか公式が出している問題は、問題の横にいきなり正解が記載されているため勉強には不向きでした、なんでやねん。
https://www.exam.or.jp/lc_r061/LC20241115.pdf

実力の推移
本番が8月23日に対して、12日前の8月11日に過去問を試験と同条件で解きました。
関係法令3点/10点、労働衛生6点/10点、労働生理5点/10点で、合計14点/30点
でした。各科目最低4点かつ、合計18点は必要なので、この時点では不合格であったと言うことです。
その時点実力がはっきり分かり、これはまずいと思いました。

その後、4日かけて復習し、8月15日に再度過去問を解き直しました。
関係法令7点/10点、労働衛生6点/10点、労働生理8点/10点で、合計21点/30点
ようやく合格点に達しました、しかし適当に書いたものも正解してしまっていたので、参考程度にしておきました。

8月20日に3回目の過去問を解きました。
関係法令6点/10点、労働衛生8点/10点、労働生理9点/10点で、合計23点/30点
最後に試験日当日の8月23日午前中にもう一度解いた結果
関係法令8点/10点、労働衛生9点/10点、労働生理7点/10点で、合計24点/30点
その中で勘ではなく、確実に解けた問題は
関係法令4点/10点、労働衛生7点/10点、労働生理6点/10点で、合計17/30点でした。

つまり、合格点18点に対して、確実に17点取れて、残りの13問は50%の確率で正解まで辿り着けていました。
このように取れた点数を逆算することによって、妙な安心感を持つことができたので、自信を持って受験し、そしてそのまま海外に旅立ちました、とさ。

合格までにかかった時間
Study Plusで時間を記録していました。
合格までにかかった時間の合計は、24時間15分です。
7月22日の週:2時間15分
7月29日の週:6時間15分
8月05日の週:6時間23分
8月12日の週:5時間45分
8月19日の週:3時間38分

どっとはらい。

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