『ドラッカーを読んだら会社が変わった』
佐藤 等
読後の感想
実際の経営者がドラッカー本を読んで、経営に生かしたらこうなりました、という事例集。
いわゆる「もしドラ」のノンフィクション版ですね(笑
本書を読むとよく分かるのですが、事例は中小企業の問題点の発見に偏在しています。
特に、代替わりした後継者が経験なくて問題点が分からん、というケースが多いように読み解きました。
私たちは皆、長所と短所、強みと弱みという言葉を知っています。
しかし自分のことでも、他人のことでも、長所に目が向く人は少数派です。
まして自分自身や部下、同僚の長所を明確に認識し、仕事に生かしている人はほとんどいません。
むしろ欠点に目が行きがちです。
なぜなら、強みは無意識のうちに生かされているからです。
本人は自然にできてしまうので、あえて意識して活用する人はあまりいません。
逆に、弱みの方は、失敗やミスなどの手痛い経験の記憶と共に強く自覚されますし、周囲からも目につきやすいものです(P.167)。
問題点が分からないときに必ず有効なのが、目的や大原則に戻るというものです。
従業員個人レベルでいうと「なぜ働くか」とか「クレド」と呼ばれるもので、組織では何かということですね。
人生においてお金が目的ではないのと同様に、企業経営において利益は目的でない(P.076)。
↓は自分の部下にも話してみようと思いました。
上司が「部下を駒にしない」と決意しても、当の部下が「駒でいたい」という態度を示すことがあります。
突然、自らの判断で行動することを求められても困惑します。
最初は、部下の相談に乗る必要があります。
その際に「代わりに考えてあげる」のでなく、「一緒に考える」。
本人の意見や希望を聞き、不安に感じたり、知識やスキルの不足を感じたりする部分をサポートします。
その際、部下が個人的に「何に挑戦したいか」を知っていると、効果があがりやすいはずです。
もう1つ、ぜひ試してほしいことがあります。
部下に、「自分の役割は何だと思っているか」を尋ねて下さい。
自分が「したい」ことを答える人もいれば、職場の空気を読んで「すべき」と思うことを答える人もいます。
いずれにせよ、上司にとっては思いがけない回答がほとんどです(P.150)。
印象的なくだり
ドラッカー教授は、「マネジメントとは実践である。その本質は知ることではなく、行うことにある」(『マネジメント[上])と言います。
つまりマネジメントは「理解」の対象ではなく、「実践」の対象だということです。道具として使うためのものです。
世に経営学の著作はあまたありますが、本当の意味でマネジメントを教えられる本など存在しません。本当の意味でのマネジメントを教えてくれる先生もいません。
その理由は、ドラッカー教授も指摘する通り、「成果をあげることは学ぶことはできるが教わることはできない」(『経営者の条件』)からです。
この原理原則は、特にマネジメントの能力について、よく当てはまります。
組織をマネジメントできる能力とは、自転車に乗れることや泳げることに似ています。座学だけで勉強して、自転車に乗れるようになったり、泳げるようになったりした人がいないように、座学だけでマネジメント能力を身につけることは不可能です(P.007)。
ほとんどあらゆる組織にとって、もっとも重要な情報は、顧客ではなく非顧客(ノンカスタマー)についてのものである(『ネクスト・ソサエティ』)(P.025)。
コスト削減より、活動削減
「成果をあげる者は、新しい活動を始める前に必ず古い活動を捨てる」(『経営者の条件』)
「古い活動を捨てる」とは、何かをやめること。小さなところでは、ダイレクトメールや定例会議の廃止など。大きなところでは、製品の生産中止や事業撤退。いずれも一見、消極的な活動に思えるかもしれません。
しかしその本質は、古い活動に拘束されていた経営資源の解放です(P.041)。
「顧客にとっての関心は、自分にとっての価値、欲求、実現である」(『マネジメント[上])
この言葉は、「現実→欲求→価値」という順番で考えると使いやすい道具になると思います(P.092)。
総務財務部の矢野美保部長は、セミナーを受けた後、事務方を担う部署のスタッフ全員に「時間の記録」をさせたいと社長に申し出た。
1日の業務時間のうち、どんな仕事にどれだけの時間を使ったかを、逐一記録させたいという。
この提案はドラッカーに基づく。
ドラッカーは、『経営者の条件』に、「汝の時間を知れ」と題した1章を設け、時間管理の重要性を説いている。
さらに時間管理の前提として、「時間の記録」をすることを強く勧める(P.108)。
Nさんに伝えたい言葉。
「時間管理は、『PDCA』でなく『CAPD』で取り組むべき」と、高塚氏は考える。
ビジネスでは「計画(PLAN)」を「実行(DO)」し、その結果を「検証(CHECK)」して、「カイゼン(ACTION)」するという「PDCAサイクル」が重要だと、よく説かれる。
だが「夢のような『計画』を立てても役立たない。まず現状を『検証』し、どこに『カイゼン』の余地があるかを知ってこそ、いい『計画』が立てられる。だからこそ、ドラッカー教授は『時間を記録せよ』と、しつこく説いたのだろう」(P.128)。