センセイの鞄

センセイの鞄
川上 弘美

読後の感想
 居酒屋で高校の先生に十数年ぶりに再会したところから始まるセンセイとの物語。大きな出来事もなく、ゆったりとした時間の流れを楽しめる小説でした。

 登場人物の心情と、景色・風景の描写の対比が見事。人物の気持ちを上手に他のものに置き換えて表現しています。言霊が透明感のある単語が多く、読んでいて心地よい。

 洋風の忙しい小説とは異なり、和風の穏やかな文章といった印象。穏やかな割には一文が短くリズミカルで読みやすい。

 実は最後まで読みたくはない作品。中盤あたりの流れをずっと繰り返したくなる。しかし、現実は「ずっとこのまま」なんてことはない、ということが最後の編「センセイの鞄」で強く感じた。

文才を感じたくだり
「しまった、と強く思った。うかつだった。うかつだったが、いやでもない。いやでもないが、嬉しくもない。嬉しくもないし、少し心ぼそい。」(P138)