『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか』

『餃子屋と高級フレンチでは、どちらが儲かるか』
林總

読後の感想
この手の「ちょっと考えさせてなんでだろうね、と思わせておいて買わせる」作戦の本は、基本的には期待薄なのですが、ちょっとした知人が「いいよ」と言ってくれて、いわゆる本の連帯保証人になってくれたので、読んで見ることにしました。Nくん、教えてくれてありがとう。

というわけで感想。

確かにその手の作戦本のように超ご都合主義のストーリーで、相続でいきなり経営者になってしまい、銀行からは一年の間に融資をちらつかせ財政体質改善を迫られ、知り合いになぜか経営に詳しい人がいて、なんておとぼけストーリーなのです。

但し、僕が考えるこの本の最大のいいところ(そしておそらく作者はここを売りにするつもりはなかったであろうところ)それは、「いきなり社長になった苦悩」をきちんと描いたことに尽きるのではないでしょうか。

つまるところ、基本的にはだいたいにおいて起業家はバリバリタイプであり、そういう人だと気にしないような部分まできちんと描写がなされていて非常に好感がもてました(先代社長から仕えてくれた番頭タイプの人に嫌味を言われて気落ちする場面とかね)。
きっと作者自身も、この手の弱気な人にコンサルする機会があったのだろうと邪推しておりますが。
『ラーメン屋の看板娘が経営コンサルタントと手を組んだら』
ちなみにとは異なり、読んだ後でも全然食欲が湧きませんでした。著者は、食べ物に関して割と淡白なのかもしれません(どうでもいいまとめ

印象的なくだり

「会社を失いたくない、と思う気持ちはよくわかった。だが、社長である君は、誰も頼ってはいけない。社長の仕事は会社を潰さないことに尽きる」(P.021)。

主人公の父親がなくなって、父親の作った会社をなんとかしたい。
でもどうしていいか分からない。感情が先に出てしまった時の言葉。
これは厳しい。でもこの言葉を実際に掛けてもらえるか、もらえないかで
今後は大きく変わるだろうと感じた。

普段使う「儲かる」と言う言葉の意味は、「現金が増える」ことで、会計でいう利益とはニュアンスが違う。安曇教授も大トロよりコハダを売ったほうが現金が増える、と言っているに違いない。クロマグロの大トロは、仕入値が高く、しかも、いつも手にはいるとは限らない。そこで、市場で気に入ったクロマグロが見つかれば、多めに仕入れることになる。すべて売り切るまでに一ヶ月かかるとすると、最初に支払った現金がすべて回収されるまで一ヶ月かかるということだ。
ところが、コハダはそうではない。仕入値は安い。一貫あたりの売価も安いから客は気軽に注文する。新鮮さが売り物だから一度に大量に仕入れることはない。一日分仕入れてその日のうちに売り切るとすると、今日仕入れたコハダは店を閉める頃には全て現金に変わっていると言うことだ。
(在庫として留まっている時間が違うのだわ!)(P.057)。

というわけで、本書のタイトルへの回答。

「今大雨が降ってきたとする。しかし傘がない。君は、自宅まで歩いて帰るか、走って帰るか、あるいは雨の中で動かないでいるか」
「もちろん、走ります」
「雨に濡れたくないのなら、走るのが一番だ。原価計算に置き換えれば、工場の中には維持費という雨が降っている、と考えればいいのだ」
雨の中では、人が早く駆け抜けるほど濡れは少ない。同様に、材料が工場を通過するスピードが速い(通過時間が短い)ほど維持費はかからない(P.157)。

ついつい人は、見えるものしか見ないし、見えないものを見えるようにしよう、なんて思いつかない。
時間ってあんなに大事なのに見えないなんてズルい、と思ったことがありますが
このセリフも同様に感じました。維持費に代表される固定費は見えない。

パーキンソンの法則と活動基準原価計算
『ひまつぶしは一番忙しい仕事である』というイギリスの古いことわざがあります。
有閑老婦人が遠方の姪に手紙を出すのに、まる1日を費やすという話です。このおばあさんは、はがきを書き終えるのにたっぷりと時間をかけます。以前、姪から届いたはがきを探すのに1時間、めがねをみつけるのにさらに1時間、宛名を探すのに1時間、文句を書き上げるのに1時間と30分、郵便局まで傘を持っていくかどうかの思索に30分、といった具合です。
私たちなら、手紙を書いて投函するのに30分もあれば十分です。
彼女は5時間もかけるのですが、いつでも忙しいと感じているのです。手紙を書くという目的からすれば、4~5時間はムダといえますが、おばあさんを笑ってはいけません。会社では同様なムダはいつも繰り返されているからです。
パーキンソンは彼の著書で次のように言っています。
「企業が拡大するのは、業務量の増大のためではない。むしろ、組織が拡大するがゆえに業務も増大するのである」
つまり、人が仕事を作り、仕事が人を要求する。その結果、組織は拡大の一途をたどる、ということです。時間があるから仕事を作り、仕事があるから忙しくなって、もっと人が必要になる、という悪循環を繰り返すことにないます(P.161)。

「先生は中国進出案に賛成ですか?」
「僕は子会社を設立して進出する案には賛成できないな。ハンナの人材ではこの会社を経営しきれないだろう。しかも、もし経営に失敗しても、簡単には撤退できない。どういうことかというと、会社を清算するには中国政府の許可が必要になるのだ。許可が下りるまで、現金は垂れ流し状態になりかねない」(P.170)。

初耳。これホント?(裏はとってません)