読後の感想
ちょうど第5回AKB総選挙(実質は株主総会的だけど)が行われており、折角なので読みました。
アイドルだけではなくテレビも含めてですが、実に商業的になり、視聴者の興味を引くためならばある程度のアレやコレ(特に秘す)なんかは平気でやってしまう気がします。
もちろんそれはとりもなおさず、視聴者が受け入れているということであり、どちらか「だけ」が悪いというものではありません。
と、話が横に逸れましたがAKB48のお話。
本当にお商売が上手だと思いますよ、ほんとに。
たかだがアイドルグループの人気投票が毎年良くも悪くもみんなの話題になる、なんて現象はAKB以前はありえなかったと思います、という意味で商売上手。
この選挙の様子を見て、本当に残酷だと思うのは「自分の人気(というか出資額)がどれだけなのか可視化され、衆人に晒される女の子」の姿をニヤニヤ楽しんでいる風景ではないでしょうか。
と、実は本書を読むまでそんなことを思っていましたが、本書からはそんな感じは微塵も受けませんでした。
書いたのはなかやん。
アイドルにしては優しすぎる女の子、と彼女のことを勝手に思っていましたが、本書にはむしろ、これを商業的機会と捉えて這い上がっていこうとするたくましい気持ちが描かれていました。
文中には何度も「出来なければ辞めるしかない」という単語が出てきます。
プロとしての意識の高さと中の人は、同情など望んでいないことすら気付かない自分の浅はかさに少し反省です。
印象的なくだり
公演に取り組んでいる間は、束の間、人気を得なければならないという責任を忘れることもできた。日々の公演に集中することで、自分の人気のなさを見て見ぬ振りをすることができたのである。
しかし、それは単に見ていないだけで、決してなくなりはしなかった。人気がない現実は、そうした忙しい日々の中でも、折りに触れてさまざまな形で差し迫ってきた。
例えば、お客さんの反応にくっきりと現れた。公演をすれば、私たちは否応なくお客さんと向き合わされるのだけれど、そうすると、そこで誰にどれだけ声援があるとか、誰にどれだけ視線がいくといったことがわかるのだ。
それに続いて、公演でのポジションや、CDでの選抜、非選抜、他のメディアのお仕事の多い少ないなど、ことあるごとに差がつけられた。だから、いかに忙しくしていようと、またいかに見て見ぬ振りをしようと、その現実からは逃れるわけにはいかないのだ。
中でもメンバーの「卒業」は、その現実を、最も強烈に突きつけられるイベントだった。AKB48は、プロのアイドルである以上責任を果たせなければ、いつまでもそこにいられはしないのだが、そうなると、残された道は「辞める」ということしかなくなるのである。
入団したての頃、レッスンなどで音をあげると、何度となく「できない人間には辞めてもらうしかない」と注意された。しかしその時は、あまり真剣にとらえてはいなかった。それは、学校でもよく聞く一種の慣用句のようなもので、「あれは脅しているだけで、実際はそんなに簡単に辞めさせられたりはしないだろう」と、どこか高をくくっているところがあった。
しかしAKB48では、それは脅しでも何でもなかったのである。単なる事実にすぎなかった。できない人間は、本当に辞めるしかないのだ。それは、お金を払ってレッスンを受けてるアマチュアではなく、お金をもらってお仕事としてやっているプロである以上、当然のことだった(P.067)。
プロとして重要なのは、「成る」ということ以上に「辞めない」ということなのだった。アイドルにとっては、オーディションに受かるということよりも、続けることの方が大事だった。
私は、ほとんど幸運のみでアイドルに成ることができた。特に、あっちゃんが同級生だったという幸運は、他のどのメンバーにもなかったことだろう。
それに、声優という夢がもともとあって、アイドルには特別興味がなかったことも、オーディションを受ける際には幸運として作用した。他にそういう受験者がいなかったので、個性的だと評価されたのだ。
しかし、いざ合格してそれを続けるとなると、もうそうした幸運の入り込む余地はなかった。そこからは、努力と実力とが否応なく問われた。歌や踊りを一定のレベルでこなすのはもちろんのこと、ファンの人気を得なければならなかった。
それができなければ、辞めるしかない。それが、AKB48を続けていくうえで私に課せられた最大の試練であった。もう「人気を得るのは億劫だ」などと甘えたことを言っている場合ではなかった。それを言い続けていれば、後は辞めるしかない。そして私は、AKB48を辞めるわけにはいかなかった(P.068)。
この「オーディションを受けられる」というのが、私にとっては大きなチャンスだった。と言うのも、アニメの世界では普通のドラマと違って、声優のキャスティングをする時には、どんなに有名な声優さんでも、オーディションを経て決められるのが一般的だからであった。それはおそらく、どんな声優さんでも実際に声を当ててみないことには、役に合うかどうかがなかなか判断がつかないということがあるからだろう。
そのため、新しいアニメ番組が始まる時には、オーディションが行われることが一般的だったのだが、しかし逆に言えば、このオーディションを受けるということが、普通はなかなかできなかったのである。
と言うのは、オーディションを受けるのが一般的である分、そこに参加するのは有名な声優さんばかりなので、それ以外の人にはなかなかお声がかからなかったのだ。
オーディションというと誰でも参加できるようなオーブンな場所というイメージがあるけど、声優のオーディションはそうではなかった。「受けてみませんか」と依頼された人だけが参加できる、クローズドな世界だったのである。
だから、実は声優というのは実際に採用されることよりも、まずオーディションに参加できるようになることが大変だった。声優として何らかの実績がなければ、そこに参加するチャンスを手にすることはほとんどできない(P.153)。