『働きざかりの心理学』
新潮社
河合隼雄
読後の感想
河合さんの本を読むと、今までいいことだと思っていたことがそれほど良くなくて、逆にそうでないことに意味があるんだなぁと気づかされることが多いです。
この人は普段多くの人が見ても素通りしてしまう出来事に立ち止まれる人だと感じました。
日本人の気の遣い方を「場の論理」という形で説明する部分は秀逸でした。
普段の生活における問題意識を喚起する文章です。
印象的なくだり
日本語の「虫が好かぬ」という表現は、なかなか味のある言葉で、私とかあなたとかではなく「虫」を主語にしているところが面白い。
つまり、嫌いは嫌いだが、自分にとっては、もうひとつわけが解らないという感じがうまくでている(P018)。
確かに、その部下を他と比較して良い点を探そうとしても何もないかもしれない。
しかし、部下のしていることのなかで何か良いとrこは無いかと思うと、案外見つかるものである。
他を標準にせずに、その人の標準のなかで良い点を探すのである(P032)。
強調というときは相手の存在だけはなく、自分の存在も生きていかなくてはならない。
両方をぶつかり合わせて、どうしようかと考えるところに苦しみがあるが、それを解決したときは新しい局面がひらかられる感じがあり、そこでは両者ともに生かされている。
ところが、妥協というのは、安易に自分を殺してしまっていることが多く、そこに新しいことがはいってこない、と言うのである(P051)。
場の力学(P133)
場の構造を権力構造としてとらえた人は、それに反逆するために、その集団を抜け出して新しい集団、彼らの主観に従えば反権力の集団をつくる。
ところが既述のような認識にたっていないため、彼らの集団も日本的な場をつくることになる。
そして、既存の集団に対抗する必要上、その集団の凝集性を高めねばならなくなるので、その「場」のしめつけは既存の集団より協力にならざるを得ないという状態になってくる。
このため、「革新」を目ざす集団が、その主義はともかくとして、集団構造をは極めて保守的な日本的構造をもたざるを得ないというパラドックスが生じてくるのである(P136)。
文明が進むと、どうして老人は不幸になるのか。
それは、文明の「進歩」という考えが、老人を嫌うからである。文化にあまり変化がないとき、老人は知者として尊敬される。
しかし、そこに急激な「進歩」が生じるとき、老人は、むしろ進歩から取り残されたものとして、見捨てられてしまうのである。
近代科学は、その急激な進歩によって人間の寿命を延ばすことに貢献しつつ、一方では、それを支える進歩の思想によって、老人たちを見捨てようとしている。
この両刃の剣によって、多くの老人が悲劇の中に追いやられているのである(P206)。
Amazonによる説明
本書は30~40代の働きざかりが、いかにして会社や家庭、そしてそこから起こる問題に向き合っていくべきかを指南した本である。
本文中には、会社ではまじめ人間の夫が家庭では妻に当たり散らす、円満だった夫婦が突然離婚に至る、何の不満もないはずの子供が突然親に反抗するなど、さまざまなケースが登場する。いずれも心理学者である筆者が実際にカウンセリングしたケースであるが、あまりにも過激な例が多くて驚かされる。それほど、ちょっとしたストレスや人間関係のもつれが人生に大きな影響を与えるということだろう。
本書は、さまざまなケーススタディーを通し、読者が心身の健康を保ち、かつ会社の同僚や家族とうまく付き合っていくためのアドバイスを与えている。
現在、会社生活や家庭生活で悩みを抱えている人はもちろん、そうでない人にとっても、快適な生活を営む上で、参考になる本である。(土井英司)
裏表紙の内容
働くこと=生きること」責任ある立場に立ち、人生の光と影を背負いながら誠実に働くことは、それだけで充分に難しいこと。「働きざかり」の世代が直面する“見えざる危機”を心身両面から探り、解決のヒントを提案します。「つきあいの功罪」「会議と疲れ」「妥協と協調」「男女の迷走」「いじめの病根」そして「中年の危機」。誰もが避けては通れない大切な課題を考えるための心のカルテ。