ブラック企業ビジネス
今野晴貴著
読後の感想
ブラック企業という言葉を一般化させた著者が、今後はその原因や企業から受けた対応などを記した続編みたいな本書です。
一企業の問題だけにとどめず、大局的な日本社会一般の話に話題を広げているため、よそごとではないという印象を強く与える一冊でした。
特に、企業の問題よりも、それに荷担する弁護士、社労士などのブラック士業にまで踏み込み、多くの記述があったのは、それだけ著者が危機感を持っている現れかと思います。
つまり、この「ブラック企業」問題は、使用者対労働者という対立構造ではなく、それを取り巻く士業も含めた労働者から搾取するというビジネスモデルになっているのが現状ということです。
更に最終的には、使用者も倒産してしまうという全くもって意味のないケースも紹介されていました。部分最適化をしようとするあまり、全体最適化が計らえなかったケースだと思います。
本書の中に、労働基準監督署の監督官が、呼び出しに応じない会社社長に対して、臨検を行おう敷地に入ろうとする話が出てきます。
それに対して、弁護士が不法侵入で訴えるとちらつかせ、臨検を妨害するという結果になってしまっています。
これは正当な権限を持っている労基署といえども、裁判を起こされればそれに対応する時間・費用が取られるので、正当な臨検なのに行使できないという矛盾した結果になっています。
これを「費用の政治」と呼んでいます。
賠償金額が高額になればなるほど、脅す側も脅される側も弁護士費用が増大する。この費用に耐えられない側は屈するしかない。
その上、訴訟には時間・労力など多大なエネルギーを要する。
裁判を半年も1年も継続することは、常人には巨大な負担だ。
争いが続くほど、双方に負荷が積みあがっていき、法的な内容とは無関係に弱い側に重くのしかかるのである。
こうした構図は、いわば「費用の政治」である。
ブラック弁護士は、ただ自信の権威によって、相手を脅す「名義貸し」だけではない。実際に裁判を起こす実行力によって、相手の金銭的・時間的負担を引き起こし、この圧迫によって不正義に屈服させるのだ(P.058)。
費用の政治は、組織の規模の大きさに応じて力関係が決まってしまう関係であり、正当かどうかとはまた別の話であるというのが問題ですね。
つまり、正しいものであっても規模が大きなものには敵わないということになってしまうのです。
印象的なくだり
違法行為に加担する弁護士の心理を、直接に表現した言葉がある。
ある法務雑誌に掲載された、企業法務の弁護士と企業の法務担当者の座談会での発言だ。
「実際問題、たとえば100人解雇したとして、いったい何人が訴えるか。1人か2人は労基署に駆け込んだり訴訟を提起したりするかもしれませんが、そんなに訴える人はいないものです。訴えられても、きちんとした理由があり、手順を踏んでいればそう簡単に負けることはないですし、最悪、裁判で負けそうならば、給料を2、3年分払えばなんとかなりますよという話です」(「BUSINESS LAW JOURNAL」2010年8月号)違法行為に加担する弁護士たちは、一般的に社員が弱く、容易に脅しに屈する存在であることを見抜き、戦略的に「対応」している(P.056)。
本音かもしれないけど、文字に残してはいかんね…。
朝日新聞(2013年4月23日付)のインタビューは大きな話題を集めた。
まず、離職率が高いという指摘に対し、柳井氏は以下のように答える。
「それはグローバル化の問題だ。10年前から社員にもいってきた。将来は、年収1億円か100万円に分かれて、中間層が減っていく。仕事を通じて付加価値がつけられないと、低賃金で働く途上国の人の賃金にフラット化するので、年収100万円のほうになっていくのは仕方がない」
さらに、記者が「付加価値をつけられなかった人が退職する、場合によってはうつになったいるすると」と質問すると、「そういうことだと思う。日本人にとっては厳しいかもしれないけれど。でも、海外の人は全部、頑張っているわけだ」と回答した(P.082)。
安くて品質のいいユニクロの背景にはこういったことがあるのですね。