『父の詫び状 <新装版>』

『父の詫び状 <新装版>』
文藝春秋
向田 邦子

読後の感想
エッセイ集なのに、一本筋の通ったお話ばかりで向田さんの考え方が伝わってくるようでした。文章に風景の見える記述が多く、読んでいて体験したこともない(博物館などで見たことはある)昭和の生活風景が広がるようでした。この後の著者の行く末を思うと、胸が痛く(飛行機のくだりがある「兎と亀」)運命の不思議さを少し感じてしまいました。

印象的なくだり
人生の折り返し地点をはるかに過ぎ、残された明日は日一日と少なくなっているのに、まだ明日をたのむ気持ちは直っていない、さしあたって一番大切な、しなくてはならないことを先に延し、しなくてもいいこと、してはならないことをしたくなる性分は、かえって年ごとに強くなってゆくような気がする(P.112)。