『フラット化する世界 [増補改訂版] (上)』

『フラット化する世界 [増補改訂版] (上)』
日本経済新聞出版社
トーマス フリードマン, 伏見 威蕃

読後の感想
これを読んで自分たちの仕事が、他の地域の安い労働力に取られてしまうと恐れる人は多いと思われます。しかし、本書にあるように、自然な流れとして、コストを考えると当然の結果と言えます。そのためどのように考えるかというと、デジタルかアウトソーシングできない仕事が相対的に重要になると考えるべきだと思いました。
つまり、デジタル化できない顔をつきあわせてする仕事の重要性が増すのだと。

印象的なくだり
「(前略)一番よい仕事がなされる場所に仕事を移すべきだという昔ながらのエコノミストの教訓を、私は心から信じている。しかし、場合によっては一人一人が新しい仕事を探しても容易には見つからないということを無視するわけにもいかない。そうした人々向けの職業訓練や社会的なセーフティ・ネットが必要になる」(P036)。

共産主義は、人を平等に貧乏にするという点では偉大な制度だった。いや、その点に関して、それをしのぐ制度はない。資本主義は人を不平等に金持ちにする。これに対して共産主義は平等に貧乏にするから、労苦や制限が多くても安心できる-仕事、住まい、年金がすべて、程度は不満足かもしれないが、保証されている(P079)。

中国のビジネスのやり方を批判する向きは、中国の労働市場における規模と経済の力は、低賃金ばかりではなく労働法の軽視と労働環境の悪化の世界的な最低水準を決めてしまうだろうといっている。ビジネス界では、これは「中国価格」と呼ばれている。
しかし、ほんとうに恐ろしいのは、中国が底値をめぐる競争ゆえに世界の投資をひきつけているのではないということだ。それは短期の戦略でしかない。どんな業種でも、中国に関して犯しかねない一番の誤謬は、中国は低賃金の競争で勝っているだけで、品質や生産性の向上はありえないと思い込むことだ。アメリカの非営利調査機関コンファレンス・ボードの研究によれば、中国の国営産業を除く民間企業部分では、一九九五年から二○○二年にかけて、生産性が年間一七パーセント向上しているーくりかえすが、一七パーセントだ。これはきわめて低い水準にあった中国が、新しい科学技術に加えて現代的なビジネスの手順を学んだことによる。ついでながら、コンファレンス・ボードはさらに、この期間中、中国の製造業部門で、一五○○万人が失業したことを指摘している。ちなみにアメリカは二○○万人である。「製造業の生産性向上が加速するにつれて、中国は製造部門の労働人口が減り、サービス部門が増えている。発展途上の国で長年見られてきたパターンである」とこの研究では指摘している(P205)。

フラットな世界でグローバルなサプライチェーンを開発するには、二つの大きな難題がある、とシェフィは説明している。一つは「グローバルな最適化」だ。一カ所でより安いパーツが得られたとしても、それだけではしかたがない。肝心なのは、地球の隅々から工場や小売店に間に合うように配送する総コストを下げることだ。それも、競合他社よりも低いコストでなければならない。「私が企業の輸送責任者だとすると、運賃が最も安い運送業者と仕事をしたいと思う」シェフィはいう。「生産責任者だとすると、最も信頼できる運送業者と仕事をしたいと思う。この二つは、かならずしも一致しない」つまり、最初の難題は、こうした要素すべてのバランスをとりつつ、最も信頼できてコストの低いデリバリー・システムを用意することだ(P220)。

「コンピュータが使えないか、使う機会がなければ、グーグルは使えない。でも、それさえあれば、文字を打ち込むだけで誰でも使える、というところまで差別をなくした」グーグルCEOエリック・シュミットはいう。世界のフラット化に意味があるとするなら、それは「知識にアクセスするのに差別がないことだろう(後略)」(P254)。

グーグル創始者の一人であるラリー・ペイジによれば、検索が容易でなおかつ性格になるにつれて、グーグル・ユーザーの基盤はよりグローバルになり、グーグルはますますフラット化要素としての力が強まるという。人々が自分の言語でインフォーミングできる度合いは、毎日増大している。ペイジはいう。現在では、「アメリカ国内の検索利用者は全体の三分の一でしかないし、英語で利用している人間は半分以下だ」。さらに、「よく知られていない事柄を検索する人々が増えると、そうした事柄を公表する人々が増える」、つまりインフォーミングのフラット化効果がいっそう強まる(P256)。

検索というのはまったく個人的な作業なので、ほかの何よりも人類に力をあたえた」グーグルCEOエリック・シュミットはいう。「教えたり教わったりという正反対の事柄がそこに含まれている。それがみずからの力を強める。自分の欲する情報によって最善と思う物事をする力を人々にあたえる。従来のどんなものともまったく違う。ラジオは一対多数。テレビも一対多数。電話は一対一。検索は、個人の力の最高の表現だ。コンピュータを使い、世界を見渡し、自分の欲する物を見つける-そういうとき、個人はそれぞれ違った行動をとる」(P260)。

誰も話したがらない真実をいま話そう。三重の集結のおかげで、このフラット化した世界の新プラットホームは、壁と屋根と床を実質上、一気に吹っ飛ばした。つまり、光ファイバーとインターネットとワークフロー・ソフトウェアが世界を結ぶと、共同作業を阻んでいた壁が吹っ飛ばされた。ともに働けるとは夢に思っていなかった個人や、外国に移すことなど考えられなかった仕事が、突然動きだし、旧来の高い壁が消え失せた。このプラットホームが、われわれの屋根も吹っ飛ばした。アップロードすること-ブログに意見をアップし、新しい政治的意見をアップし、新しいソフトウェアをアップすること-などとてもできるとは思えなかった人々が、いまや世界にグローバルな影響を及ぼすことができると気がついた。旧来の屋根がなくなると、上へも横へも、これまでは考えられなかったやり方でひろがることができるようになった。そして、今度は突然床がなくなる。「検索」という新産業のおかげで、個人が事実、引用句、歴史、他人の個人情報まで、いまだかつてなかったほど深く掘り下げることができるようになった。以前は硬いコンクリートの床で、人間や物事の過去や現在を調べるにも限りがあったのだが、いまやそれがなくなってしまった(P326)。

ヨーロッパやアメリカで一人雇うのと同じコストで、優秀な研究員五人を中国やインドで雇えるとしたら、私なら五人を雇う。その結果、私が所属する社会から将来的に技術が失われることになったとしても、それはしかたがない。企業とその母国の二者の利益を合致させるには、大きくなったグローバルなパイのひと切れを要求するだけではなく、新たなひと切れを創出できる知力を備えた国民を抱えるほかに方法はない(P344)。

「『フラット化する世界 [増補改訂版] (上)』」への1件のフィードバック

  1. ac東京オフィスで大連アウトソーシングというこの本のド真ん中の仕事をした立場として
    日本に「残る」、価値の上がる仕事は何だろう?って日々すごく考えてました
    中国の若きパワーは本当にすさまじく、大連のオフィスの空気も成長の勢いを感じられる場所で「あの場所はぜひ一度みた方が良い」と言う人が多いです
    驚くほど大勢の若い中国人が日本語を日々学習して、ここ3年でビジネスレベルの日本語が出来る中国スタッフは何倍にも増えました
    日本の「外に出せる」仕事がある日突然、一気に流れるというXディが来る日も近いと思います
    日本でオフショア開発はうまく行かないと思って安心している人が多いIT業界ですが、そんなわけには行かないぞよと、注意喚起したくなるのよ…..(日本ーインドのシームレスな協業はまだ遠いと思うけどね)

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