『成功者の告白』
5年間の起業ノウハウを3時間で学べる物語
講談社
神田 昌典
読後の感想
著者の神田さんが複数の会社の実例を下敷きにしながら、会社が成功するまでの課程を描いた小説。小説でありながら実話がベースになっているので非常にリアルで読みごたえがあり、例えば起業家が陥りやすい失敗を「地雷」と置き換え、その経験を分かりやすく書きかえるなど具体的であるため、自分に置き換えて読み進めました。
結果的に、この「自分に置き換える」という行動が大変重要で、リアリティがあるだけに成功体験を追体験したような気になれるメリットがありました。
おかげで、最後のシーンでは電車の中だったにもかかわらず泣けてしまいました。
同じような形式の本に「V字回復の経営」がありますが、どちらもおすすめの一冊です。
個人的にクレームのくだりが非常に役に立ちました。
印象的なくだり
映画と同様、経営者は他社と似たようなパターンで進みつつも、自社だけは異なる独自の道を進んでいると勘違いしている。
問題は、パターンが見えないためにパターンに翻弄されていることだ。その結果、どの会社も他社と同じような間違いを、他社と同じようにしているのだが、他社と同じように問題が表面化するまで何もアクションを起こせない。その結果、他社と同じように、家族や社員が犠牲になる(P015)。
年収が高くない人は、年収を高く見せる必要がある。本当に年収が高い人は、年収を低く見せる必要がある。なぜなら、年収が高いといろいろ面倒なことがあるのを知っているからである(P032)。
たいていの人は、好きなことをやるべきか、それとも儲かることをやるべきか、その間で揺れて、結局、何もできない。しかし儲かる仕組みと、誇りを持てる仕事というのは両立できる。情熱を傾けられる仕事をやるのは当たり前。そのうえで、ビジネスの仕組みをつくるんだ。その両輪をまわす必要がある。だか儲けることに真剣な経営者は、商品づくりにも真剣。自分の売っている商品を心から愛している。そして、その商品を世に広げていくビジネスを心から楽しんでいる(P045)。
背景となる経験があまりにも違うと、どんなに言葉を工夫してもすれ違う。お互い日本語をしゃべっていると思い込みながら、実際には、地球人と宇宙人が身振り手振りで話しているようなものだったかもしれない(P055)。
経営者には保険もなければ、退職金もなければ、有給休暇もないのである(P058)。
タクは仕事をシステム化しようとしたよね。ところが、もとの仕事の進め方こそが、そもそも非合理的・非効率的だった。その非効率なプロセスを自動化するために、コンピュータを導入したわけだ。すると結局、バカがやっていたことを自動化するわけだから、バカがよりスピードアップしてバカがやることになる。要するに、最強のバカをつくりだすんだ。だから大変な問題が、数年にわたって起こるんだ(P200)。
「根本的な原因は、クレームの質が変わってきているのに、会社がそれについていけないことなんだ。(中略)」
「クレームの質が変わってきているというと?」
「ほんの一昔前のクレームは、商品に関するものが中心だった。品質が悪いとか、使い方がわからないとかね。この手のクレームは、返品に応じたり、また使い方を教えたりするだけだから、クレームを受けても精神的な傷にはなりにくかった。ところが今は、商品に対するクレームではなく、自分を大切に扱ってくれなかったということに対するクレームが多くなっている。
この自分を大切に扱ってほしいという客には、マニュアル的に対応したら、相手はなおざりにされたと感じて傷つく。すると逆上して、手ひどい言葉を電話受付の女性にぶつける。このときは相手を傷つけることが目的だから、本当に酷い言葉を選ぶ。電話を通して、怒りの感情をぶつけるわけだ。(中略)
この怒りを電話受付の担当者は受けるわけだけど、怒りというのは行動によってしか解消されない。ところが、お客様は神様だという思想が社内に根強かったとするだろう。すると、その怒りを社員は会社で出すことができずに、家庭に持ち帰るわけだ」
怒りのキャッチボールが会社と家庭で行われていることを理解して、タクはぞっとした。ここでもまた経営と家庭は、切り離せない関係になっている」
(中略)
「神崎さん、先ほどの自分を大切にしてもらいたいというクレームには、どうやって対応すればいいのでしょうか?」
「ああ、そうだったな。それがわからないと対応できないもんな。まずは、相手が辛辣なクレームを言っているということは、相手がそれだけ熱心にタクの会社を考えてくださっているのだと考え直す。そして相手に感謝をして、ねぎらいの言葉をかけること。タクの会社のケースだったら、たとえば「今回お叱りのお電話をいただきましたということは、それだけ熱心に海外事業に取り組まれていらっしゃるのですね。ありがとうございます」と応える。
その後で、相手の怒りをすべて聞く。その際の表現は、「少し情報をいただきたいのですが、よろしいでしょうか?」相手が怒りをあらわにしているときには、明らかに誤解だったり、相手に非があったりしても、けっして口を差し挟んではならない。けっしてだ。なぜなら、口を挟むと相手は否定されたと思い、火に油を注ぐことになるからね。
相手が怒りを出し尽くしたなと感じたら、それを確認するために一言いう。「それで全部ですか?」または「その他に、ございますか?」こうやって相手の怒りのエネルギーをすべて解放する。空っぽにするんだ。
相手は、自分の意見を聞いてくれた、というだけですでにかなり満足しているはずだ。そのときに言うべきキーフレーズがある。「どのようになれば満足されますでしょうか?」と聞くんだ。
通常、日本の会社は「どのようないたしますと、ご納得いただけるでしょうか?」と聞いてしまう。この二つの表現のあいだには、大きな違いがある。「どのようになれば満足されますでしょうか?」と聞けば、相手は満足できる状態を具体的にイメージしだす。それに対して、「どのようにいたしますと、ご納得いただけるでしょうか?」というのは、会社が非を認めたことを前提に、相手から譲歩を引き出そうとしているかのように聞こえるからなんだ。
ここまで丁寧に対応すれば、自分を大切に扱ってもらいたいとのクレームには、うまく対応できると思うよ。」(P207)。
第三者からのフィードバックが大きければ大きいほど、つまり大人数に同意されるほど、自分の意見は正しいと確信できる(P230)。
クレドの項目を考えるには、その怒りをきっかけとする。怒りとは、タクの期待、すなわち価値観に対してズレている行動を示すもの。だからね、怒ったことを手がかりにして、もう二度と怒らなくていいように「○○してはならない」という文章をいくつもつくっていくんだ。「○○してはならない」という文章ができたら、同じ趣旨を肯定分に直してみる。なぜなら「○○するな」という表現は非常に厳しく聞こえるので、社員にとってはストレスになる。同じ意味でも、「△△する」という形に言い直したほうが、より潜在意識に刻み込まれやすいことがわかっているんだ。たとえば、「月曜日に休んではならない」という表現は、「休暇をとる場合には、チームメンバーに迷惑をかけない日にしよう」という具合に言い換える」(P232)。