『あたらしい戦略の教科書』

あたらしい戦略の教科書

あたらしい戦略の教科書

価格:1,575円(税込、送料別)

『あたらしい戦略の教科書』
酒井 穣
ディスカヴァー・トゥエンティワン

読後の感想
自分もよく感じている想いを、代弁してくれたかのような本でした。
いわゆる「ボトムアップからの戦略」、「事件は会議室で起きてるんじゃない、現場で起きているんだ」的なことを思いつつ、どうしたらよいのか分からない人にとっては非常に有意義な内容でした。特に具体例を使いながら、戦略と目標を組み立てていく様は、何を取捨選択すればいいのかが非常によく理解できました。
特に印象的だったのは、随所に「日本人的な」問題意識があったことです。この手の本は翻訳本が多く、そこまで触れられていないもの多かったのですが、その意味では大満足でした。

印象的なくだり
歴史的に、地震、台風、津波などの天変地異を不可避なものとして経験してきた日本人は、自然をコントロールしようとすることがいかに空しいことであるかを学んできました。そんな日本人は、環境をコントロールしようとすることではなくて、環境に対して自らを合わせていく方法を身につけてきたとも言えます(P007)。

実際に目的地を目指して動き始めると、それまで見えていなかった事柄が次々と明らかになります。明らかになっていくのは、いうなれば新しい現在地の情報です。この新しく得られた現在地の情報を食べて、戦略は強く大きく成長します(P034)。

「ドライ情報」とは、業界紙などの紙媒体やインターネットで入手できるような、一般に公開されている情報のことです。ウエットな人間関係を利用して、人づてによって入手できる「ウエット情報」と区別するために使用される言葉です。
(中略)直感でも理解できると思いますが、ドライ情報のほうが、ウエット情報よりも入手も伝達も簡単で、多くの場合、信頼性も高くなります(P077)。

自社の戦略にとって最も価値の高いウエット情報をもたらしてくれるのは、「まだ自社の顧客になっていない人たち」の意見です(P083)。

普通は、戦略を立案する段階においては、欲しい情報が見つからないことのほうが圧倒的に多く、ウエットな事実を見つけるのには時間もかかります。
このため、多くの情報はわずかな手がかりから推定されることになるのですが、このときに、どの情報が事実であり、どの情報が推定であるのかをごちゃ混ぜにしてしまうことのないように注意する必要があります(P096)。

目標とは、人々の気持ちを一つにして、チーム全体のモチベーションを高めるためにあるのであって、人々が目標のために存在するわけではありません。従業員を私物のようにして扱う経営者は、この点を誤解しています。
優れた目標というのは、まず第一に、そこにいる人々のモチベーションを有効に高めることができるのです
(P111)。

教育心理学の本をひもとくと、目標には大きく分けて、「成績目標」と「熟達目標」の2種類があると書かれています。
より良い成績をとることで、周囲から能力の高さを認められることに価値をおく「成績目標」は、読者の多くにとって、苦い記憶を伴いつつも、馴染みのあるものでしょう。
これに対して、「熟達目標」という、以前できなかったことが、できうようになることに価値をおくという目標の存在は、意外にもビジネスの現場には応用されていません。
(中略)
筆者は、これからの時代の目標のデザインには、厳しい成績目標を、いかにして達成可能な熟達目標に翻訳していくのかという視点が求められると考えています(P127)。

ワンマンとは、他人のアイデアが優れていても、それが自分のもでない限りは実行しないからこそワンマンと呼ばれるのですから、この点には十分注意しましょう(P190)。

情熱のベースには、正義感があることが多いものです。
ところが、この正義感というのは曲者です。正義の旗を高らかに掲げるということは、批判されない安全地帯で、自分だけが目立つことにつながるからです。
ですから、人間の正義感とは、「自らが十分に世間から認められていない」という「不遇感」を埋め合わせるために発露することが多々あるのです(P200)。

ベテランのドライバーは「何を無視すべきか」を体験的に知っているからこそ観察力というコップに空きが生まれ、危機対応への余裕を持った運転ができるのでしょう(P227)。

「『あたらしい戦略の教科書』」への2件のフィードバック

  1. こんにちは。本書の著者です。まずは本書のお買い上げ、ありがとうございました。また嬉しい書評を頂戴し、ありがとうございます!今後とも、よろしくお願いします。

  2. 遅くなりましたがありがとうございます。
    続編も購入しました。

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