『社畜のススメ』

『社畜のススメ』
藤本篤志

読後の感想
最初に書いておきますが「タイトルから「みんなが思ったこと」と違うよ」ということ。
いわゆるいい意味でのタイトル釣りです。
著者は営業のコンサルタント、で元営業マン、営業マネージャーだった方です。

著者はサラリーマン(あえてこのような表記をしています)経験から
以下のことを感じたように読み取れました。

一つ目は、サラリーマンの新入社員に独自性を求めるのはそもそも無茶だということ。

新入社員に対して、先輩や上司は「我々にない視点を提供してほしい」「既存の殻を破るような斬新なアイデアを出してほしい」と求めます。
(中略)
しかし、そんなことが簡単にできるなら、どの会社も苦労はしません。実際の新入社員で、しかも就活を勝ち抜いたような人は基本的には常識人です(P.055)。

二つ目は、普通の人は訓練している間は、意味が分からず、成果が出て初めて分かること。

映画や小説の世界ではお馴染みです。
強くなりたくてカンフーを学ぼうとする者に、師匠は一見不可解な作業ーたとえば井戸の水汲みなどーを命じます。
若者は不満に思いつつも、それに従っているうちに基礎体力を身につけ、ある時点で急に強くなる、といった類のストーリーを目にしたことがあるでしょう。
「言われた通りにやりなさい」の効能を分かりやすく示すと、そうなるわけです。
「言われた通りにやりなさい」というマネジメントを妥協なく推進するにあたって、上司の側は傲慢に思われる危険を覚悟しなければなりません。
近頃流行りの「友だちのような親子関係」に類する「友だちのような上下関係」の構築はできなくなります(P.075)。

キャリア・デザインというと、5年後、10年後のキャリア・ゴールを設定する「山登り型」を多くの人が想定しがちだが、キャリア初期には激流に身を任せ、次々と訪れるさまざまな難題に対処する中から自己を発見していく「筏下り型」のほうが望ましいのだ『就活エリートの迷走』豊田義博)
上司からの命令や仕事の上でのノルマは、ここでいう「激流」の一種です。
それらは要するに問答無用に押し付けられるものです。
会社は部署にもよりますが、「体育会系」の学生が根強い人気なのは、この問答無用への耐性がある人が多いからです。「なんかヘンな指示だな」と思っても、とりあえす実行してみる人の率が高いのです(P.058)。

そして、三つ目は成長に応じて生き方を変えることです。

こうした「服従の誇り」に通じる教えを説いた人がいました。能楽の大成者といわえる世阿弥です。
(中略)
「守破離」とは、人が成長していくプロセスの重要性を説いたものです。
「守」の段階では、師に決められた通りの動き、形を忠実に守る。「破」の段階では、「守」で身につけた基本に自分なりの応用を加える。
そして「離」の段階では、これまでの形に囚われず、自由な境地に至る。
簡単にいえばこのようなプロセスです。
「守」が入社から若手時代、「破」が中案管理職、「離」が経営側もしくは独立、というのがアバウトなイメージだとお考えください(P.059)。

まぁ、ざっくり言って「社畜になれ」というのは、若手時代から中間管理職までの、いわゆるサラリーマンのルールを学ぶ時期の話であって
一生会社に服従して生きていきましょう、という内容ではありませんでした。そりゃそうだ。

ちなみに著者が引用している本は、自分が読破済みの本が多かったです。本の相性よさそうですね。

印象的なくだり

サラリーマンの四大タブー
「個性を大切にしろ」
「自分らしく生きろ」
「自分で考えろ」
「会社の歯車になるな」
(中略)
本書で私はこの四つの言葉をサラリーマンの「四大タブー」と呼ぶこととします。
つまり、サラリーマンの正しい姿とは、個性を捨て、自分らしさにこだわらず、自分の脳を過信せず、歯車になることを厭わない存在となることである(P.034)。

営業という仕事は凡人でも努力次第で一定の成果が得られる職種だからです。
営業の成果は営業量、すなわち営業マンの活動量にほぼ比例します。
要するに、同じような能力の持ち主が二人いれば、靴をすり減らした者のほうが、成果が出るということです(P.069)。

派閥に入り、その上司の嗜好を知れ、といった考えは、己の道を進み、上司に媚びるな、といった教えに比べると、どうにも魅力がないのはよくわかります。
「派閥に入らず、己の道を進めば道は開ける」というのは、「正しい主張を自分の言葉で繰り返せば、いつかうまくいく」というスタンスに似ています。
それはビジネスというよりは呪術に近い(P.124)。

ジェフリー・フェファー『権力を握る人の法則』
実績と昇進の関係に関しては組織的な調査が行われており、数多くのデータがそろっている。
あなたが賢いキャリア戦略を立てたいなら、まずは事実を知っておくべきだろう。
多くの組織、多くのポストで、実績はさほど重要な意味を持たないことが、データによって明らかになっている(P.132)。

最新のアプリは、あなたを最新の人間にしてくれるわけでもありません。
ツイッター等には知り合いや有名人のどうでもいい雑談が、かなり多いのです。
仲間内のツイッターなんて論外です(P.178)。

ドキッ(自覚あり

P&Gという通称で知られるプロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社では、「ワーク・ライフ・バランス」の代わりに「ベターワーク・ベターライフ」という言葉を使っています。
仕事と生活はバランスを取るものではなく、相互に影響して高めあう存在である。
そんな考えに基づいているそうです。
良い仕事をすれば生活も良くなる。良い生活を送れば仕事も良くなる(P.189)。