セックスボランティア
新潮社
河合香織
読後の感想
寝た子を起こすな、と表現されるように、障害者の性という今までタブー視されていた問題に切り込んだ一冊です。その意味でも、功績の大きい本だと思います。
感情の問題が生じてきてしまうので、本来の問題と向き合うのは難しいと感じました。
介助者による自慰の手助けなど、かなり生々しく書かれていますが、著者がきちんと取材していることが伺えて安心して読めました。
現実にあることなので、もっと多くの人に読んでもらいたいと感じました。
印象的なくだり
「おんな の こ と あそびに いきたかった けっこんも したかった こども も ほしかった きょういくも うけたかった でも そう おもうことさえ ゆるされなかった」
文字盤の上に、静かに涙がこぼれ落ちた(P032)。
NVSHの本部があるハーグへ向かう途中、電気事故のため、電車が途中で止まった。
ホームに降りると、初冬のよく晴れた空から吹く風は痛いくらいの冷たさだった。
仕方なくタクシーに乗り換えた。シートに身をうずめて、運転手と雑談をしていた。大柄の黒人中年男性だ。
(中略)彼は「障害者や高齢者の性のケアは必要だ」とうなずきながら、こんなエピソードを話してくれた。
先日、スーパーに強盗が入り、店員が犯人を追いかけて組み伏せる事件があった。
しかし、そのときに暴力を振るったということで、強盗ではなくて、店員が逮捕されてしまったのだそうだ。
「オランダ社会における権利の主張は行き過ぎていると思う」彼はそう嘆いた(P162)。
「(前略)、障害者について、世間全般がもっと自分のこととして切実に感じてくれないと変わるのは難しいでしょう。
障害者には自分はならないだろうってそう思っている限り、障害者が抱えている問題は自身のこととしては感じられない。
せめて想像くらいはして欲しいのです。結局、障害者と健常者が隔てられて暮らしている。(後略)」(P205)