『北朝鮮を知りすぎた医者 国境からの報告』

『北朝鮮を知りすぎた医者 国境からの報告』
草思社
ノルベルト フォラツェン, Norbert Vollertsen, 瀬木 碧

読後の感想
何年か前に北朝鮮について知りたいブームがきたときに購入した本の残り。
まず題材の前に、著者の知的好奇心の方向と行動力にはあこがれを抱かずにはいられません。多くの危険を省みず、著者のように行動できるのは、まさに心から救済を望んでいるからでしょう。
その意味では、非常にうらやましく感じました。自分だったらこのように行動できるだろうか(反語)と思わざるを得ませんでした。
もちろん内容の緻密さにも驚かされます。当然本人の日々の記録の賜物でしょうが、写真も多く掲載されており、外国人が書いたこの手のものの中では情報量は抜群でした。

印象的なくだり
かつてナチスドイツの強制収容所の噂が初めて人の口にのぼったとき、だれひとりとして収容所から逃げてきた人たちの話を信じようとしなかった。ジャーナリストも政治家もみんな誇張されていると考え、ユダヤ人のプロパガンダだと見なした。
この気持ちは、トレブリンカやオシフィエンチム、ダッハウなどの収容所を解放したアメリカ人、イギリス人そしてロシア人たちが、残酷な現実を目の当たりにするまで続いた。目の前の屍の山は、想像を絶する凄惨なものだった
(P.144)。

どの国民も自分たちにふさわしい政府をいだいている(P.176)。

ソウルと東京では、アジア人らしい丁寧な人たちに囲まれていたので、アメリカ人のストレートな態度ーがさつとまでは言わないまでもーに慣れるまでしばらく時間が必要だった。アメリカの航空会社ユナイテッド・エアラインの機内ですでにその違いは目についた。「コーヒー、ティー?ユア・ウェルカム」だがその顔つきは「ウェルカム」にはほど遠い。とはいうものの、アメリカ流の「不愛想」、感じやすい人間にとっては時に粗暴とも感じられるこういう態度を、「効率のよさ」という面も考えに入れて公正に評価するためには、おそらくもっと時間が必要なのだろう。朝鮮でも、朝鮮人を理解するにはやはり時をかけなければならない(P.185)。

チャック・ダウンズはその優れた著書のなかで、北朝鮮の交渉術、その卓抜な能力について次のように指摘しているーいかなる交渉においてもかれらはあくまでも自分たちの利益になるように利用し尽くす。交渉相手をおたがいに争わせて漁夫の利を占める。怯えさせる。そうしておいて罪悪感を起こさせる。一言で言えば「相手をペテンにかける」ということだ。したがって、北朝鮮を相手にするときのアドバイスは基本的には次にようになろう。
交渉しないことー行動あるのみ。
もしまともな手段では行き詰まってしまったら、時には「やぶれかぶれ」になって突っこんでいくこと。
ときどきは嵐のように、つまり、朝鮮における「全天候型政策」を用いて・・・(P.214)。