『プロ法律家のクレーマー対応術』

『プロ法律家のクレーマー対応術』
横山雅文
PHP研究所

読後の感想
一概にクレーマーと括らず、相手の目的によって分類することに大きな意味を感じました。これによって対処の指針が明確になるなぁと。
「おわりに」に書かれていたことがとても印象的です。企業の表と裏の行動に対する、潜在的な反感がクレームの原因で、その企業の欺瞞に対する侮蔑が原点だというのです。
とにもかくにも、まずは顧客とクレーマーを分けて考えるのが大前提のようです。クレーマーと決めたら、合理的な説明をしても無駄なので、対応を変えないといけません。
通知方法や対応策など本書に書かれているものは非常に具体的で参考になりました。

印象的なくだり
悪質クレーマーには合理的な説明が通じない
そもそも、悪質クレーマーは、本質的に合理的な説明、常識的な対応では納得しない人々なのです。
まず、このことを肝に銘ずる必要があると思います。
したがって、悪質クレーマーとの交渉は必ず堂々巡りとなり、悪質クレーマーの不当な要求を呑まない限り、交渉を続けても平行線なのです。
そのうちに従業員は精神的に疲弊し、さらには、いたずら電話、迷惑メール、インターネット上での誹謗中傷などさまざまな迷惑行為や加害行為にさらされることになります。
ですから、悪質クレーマーに長期間関わることに全く意味はありません(P031)。

クレーマー対策の最終的な目標は、具体的な場面で、顧客と悪質クレーマーとをどう区別し、悪質クレーマーにはどう対応するかという、的確な判断・対応能力を全従業員が身につけることです(P034)。

反社会的悪質クレーマー - 巨額の金銭・利益を得るのが目的
彼らが狙うのは、企業との「秘密の共有」です。
すなわち、「一度、自分たちの不当要求を呑んだことを公にされたくないのであれば、要求を呑み続けるしかない」ということを狙っているのです
(P060)。

「保険で処理すればいい」とは絶対に考えない
一度このような考えで処理すれば、必ず、習慣化します。
そして、そのような処理は、その人一人では済みません。同僚もそのような処理の「ゆるい雰囲気」の影響を受けます。
さらには、後任者はそのまま、そのような処理を踏襲していくでしょう。
「どうせ他人の金で処理される」という考えはその企業の文化を腐らせていきます(P093)

言質をとられるのを回避するコツ
言質をとられないためには、迫力負けによる混乱の危険を感じたら、まず最初に、自分に決裁権がないことを明言してしまうことです(P107)。

少なくとも、日本の裁判で、裁判官が企業の担当者がクレームをつけてきた顧客に対して「申し訳ございませんでした」と言ったことを理由に企業の責任を認めるなどということはありえません。謝罪の言葉と、過失や法的責任の有無とは全く別の問題なのです(P189)。

「お客様相談室における2007年問題」ということが密かにいわれています。
2007年問題とは、普通、団塊の世代が2007年に定年退職期を迎えて、大量に退職してしまうことによる企業における労働力不足の問題をいいますが、お客様相談室のそれは、定年退職した団塊の世代が暇を持て余して、その知識と経験を生かして厄介なクレーマーになり、大量のクレーマーが発生するのではないかという問題です
団塊の世代の方々にとっては、非常に失礼な話ですが、現にクレーム対応に携わっている担当者の率直な懸念というか、実感らしいのです(P204)。

実務的に役立ちそうなくだり

通知を出すときの郵便の注意点
(前略)、交渉拒絶・交渉窓口弁護士移管の通知を出す際に、注意すべきことが3点あります。
01.必ず、書面で郵送すること、すなわち、メールなどで通知しないことです。
(中略)、郵送で書面を受け取ると不思議なもので、書面で郵送して返答しなければならないと考えてしまうものです。
しかし、書面を作成して投函するというのは、メールを返送するのと比較してはるかにハードルが高い作業です。
単純なことですが、このようなことで、彼らが以後の不当要求を断念するという要素もあるのです。
次に、02.配達証明付き内容証明郵便にこだわらず、普通郵便で出すということです。
なぜかというと、彼らは警戒心が強いため、内容証明郵便や配達証明付き郵便は警戒して受け取らない可能性があるからです。
交渉拒絶・交渉窓口弁護士移管の通知は、彼らが受け取ってその内容を読まなければ意味がありません。
一方、配達証明付き内容証明郵便は、自分がその文書を相手方に発送し、その書面を相手方が受領したことを立証することに目的があるのです。
(中略)そして、03.その通知文の中に彼らの不当要求行為を具体的に書くことです。
なぜかというと、単に「不当要求をされましたので、交渉できません」と書いただけだと、彼らがこのような通知文をネット上で公開し、「A社は、口座振替依頼書を紛失したのに、私がその責任を追及すると、一方的にこのような手紙を送りつけ、弁護士に交渉しろと言って、交渉を拒絶した」などと書かれてしまうからです。
しかし、この事例でいえば、「慈善団体に100万円寄付しろ」という要求をされたことを書いておけば、たとえ、この通知文がネット上に掲示されたとしても、B氏のほうがおかしいという評価を受けることは明らかです(P090-092)。

念書の撤回通知を出す場合のポイント
(3)配達証明付き内容証明郵便と普通郵便の2通を出す
ただ、相手方が、念書の撤回通知であることを予期して、配達証明付き内容証明郵便の受領を拒絶する可能性もあります。
このような場合に備えて、配達証明付き内容証明郵便と普通郵便の双方で撤回通知を出すとよいでしょう。
その際、内容証明郵便の方に「なお、念のため、同文の書面を普通郵便にて郵送してあります」と付け加えておくのです。
こうすると、仮に内容証明郵便が受領拒絶されても、内容証明郵便を発送したことは証明されます。
そして、その内容証明郵便に普通郵便でも郵送したと記載されていれば、間接的に相手方は、同文の撤回通知を普通郵便にて受領したであろうとの証明ができるのです
(P121)。