『フリーランス、40歳の壁』
竹熊健太郎
ダイヤモンド社
あらすじ
「サルまん サルでも描けるまんが教室」の著者でもある1960年生まれのフリーランス竹熊さんが、編集者になったり大学の専任教授になったり結婚したり離婚したりを経て50代に突入し、今までを振り返って、どうやって生きてきたかを書いた本です。
タイトルにある「40歳の壁」は一言で書くと、
取引先の担当社員が年下になってしまうからなのです(P.234)。
ということ。
読後の感想
本署に登場するキーワードの一つとして「バブル期」の高揚感があると思います。
竹熊さんをはじめとして、対談相手として登場する生き残ってきたフリーランスたちは、青年時代にバブル期を味わっています。若くしてミニコミ誌で好きなこと書く→受ける→大衆受けする→新たな企画、という形で、いわゆる一般の企業になじめないままフリーランスとして生きてきてしまったと書かれています。
会社員はできなくとも、社長ならできる(P.263)。
は言い得て妙だと思いました。
あとがきを読むと竹熊さんは締切を守ることが相当難しい性質であることが分かります。そんな中、本書がダイヤモンド社から出版されたのは本当にすごい。担当者、編集者がすごい。この本を読んで、より強く思いました。
一番の発見は、対談相手である漫画家の田中圭一さんのキャリアでした。元々会社員だったのは知っていましたが、ずっと会社員をやりながら漫画家をしていたとは知りませんでした。レアすぎて余り参考になる気がしませんでしたが。
この本を通じて「町のパン屋さん」の可能性について深く考えなおすきっかけになりました。似たようなことはオタキングこと岡田斗司夫さんや、オンラインサロンを作る人が提唱していますが、インターネットの台頭によって3000人程度のファンがいるコミュニティを作れば、クリエーターはその人たちの援助で食っていけるというものです。生き残る人は変化に対応できた人ですね、やはり。
あと、カバーには「一生フリーで食べていくためのサバイバル術がここに」とありますが、そんなことは書いてないです。
印象的なくだり
プロとアマの違いはひとつしかありません。自分の仕事がお金になり、それで生活ができることです。よく勘違いされるので、書いておきます。プロは、アマチュアより才能があるからプロなのではありません。世間には、プロ以上に優れた作品が書けるアマチュアがごまんといます。
文学新人賞の審査の下読みをした人から聞いた話ですが、落選する応募者の中には、三島由紀夫や谷崎純一郎のような名文を書く人がかならず紛れているそうです。名文なのになぜ落選するのか?と言うと、一番の理由は「売れるフック(引っかかり)」が見当たらなかったのだと思います(P.019)。
このフックという言葉、残酷だなぁと感じる自分はまだまだアマチュアなのでしょう。
やはりプロの世界というものは努力とかだけで生きていける世界ではないのだなあ。
本当なら、浦沢さんはデビューしてすぐにでも『MONSTER』のような作品を描きたかったそうです。しかし『MONSTER』は複雑な心理サスペンスで、新人が描いたらマイナー作品として葬られる危険がありました。
そこで浦沢さんはまず「戦略的に」受けを狙って『YAWARA!』をヒットさせ、圧倒的な実績を築き上げることで、「描きたい作品が描ける」作家に自分を鍛え上げたと言えます。
(中略)
プロ作家として成功するためには、自分の苦手なものでも描かなければならないことがあるのです。芸術家肌の作家と、プロ作家は違います。浦沢さんは、ほんもののプロ作家だと私は思います(P.054)。
浦沢直樹さん恐るべし、
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