『マネー・ボール』

「マネー・ボール」
マイケル・ルイス 著
中山宥 訳

 

読後の感想
子どもの頃からなじみのある野球。
最近はサッカーと人気を二分している節もあったりするのですが、僕のTwitterのTimeLineは野球であふれている位、
まだまだ人気は衰えていないというところでしょうか?

その日本に比べてアメリカは野球に対しては多分に狂気的。
例えば、「ユニヴァーサル野球協会」という小説は、架空の野球ゲームに狂ったように興じる男性のお話です
(ブログを始めるかなり昔に読んだので記事がない)。

どのくらい狂っているかというと全部のチーム、全選手を自分で架空で作り上げ、
サイコロを振って、試合を展開していくというもので、まぁパワプロのテーブル版といったところでしょうか?
もちろん、お仕事もなさっている方なのですが、架空の野球ゲームにはまりすぎて
現実がそっちのけになっている、というお話なのです。

さて、この「マネー・ボール」は実在するオークランド・アスレチックスを舞台にして
General Managerのビリー・ビーンがいかにして、アスレチックスを強くしていったかというノンフィクションです。
もちろんなぜ本になったかというと、他のチームが(その選手の本当の価値が分かっていないという意味で)気付いていない選手を取得して大化けさせて、そして高く売ったという点が、他のチームの強くなり方とは全く違っていたからです。
つまりメジャーでは「新しい強化法方」だったからです。
このやり方は「セイバーメトリクス」と呼ばれています。
既存のやり方は、打者の打点、打率、安打数を参考に、従来の計測法方だとよく活躍する選手を高く雇って強くする方法です。
これだと、選手の年棒はどんどん上がり、よりお金持ちのチームによい良い選手が集まるようになります。
ところが、ビリー・ビーンはお金を掛けずにチームを強くする必要に迫られます。なぜならアスレチックスにはお金がありません。

という流れで物語は進行していきます。

なにより驚いたのはメジャーリーグの裏側のすごさ。
もちろん大金が動くのでビジネスライクだと言えばそれまでですが、その日対戦する相手方のピッチャーを引き抜いて(そしてそのピッチャーには先日こてんぱんにされている)、自分のチームのピッチャーとして投げさせる。
代わりに今まで投げていた自分のチームのピッチャーはクビ、投げる予定だった試合を観客席で見学、というそのやりとりには、一種の凄みを感じました。
なんせ、本の中では「当たり前だろ?」という風に展開していくのです。
つまりみんな「そういう世界」と分かって飛び込んでいるのです。

僕が甘いのかどうかは分かりませんが、こういったやりとりだと、選手があっちこっちに移動してしまうので、特定の誰かになんて思い入れはもちにくいんでしょうねぇ、きっと。

出典は忘れましたが、ある野球評論家(かスポーツジャーナリスト)が、日本の野球は個人にファンがつく、アメリカの野球はチームにファンがつく、と書いていましたが(確かその話は、チームが都市や地域に根ざしているからという趣旨だったはずですが)なるほど、これほど頻繁に選手の所属チームが変わるのでは、それもあり得る話なんだろうなぁとしみじみと思いました。

ちなみに僕は登場人物が覚えられず、いちいちメモしながら読みましたが、後々ネットなどで調べてみると「あぁ、こんな選手だったのか」と驚くこともしばしばありました。
映画にもなっているようなので、そっちも見てみたい位いい本でした。



印象的なくだり

野球を分析して行くと、さまざまな意義深い数字が表れてくる。だが、野球において最も肝心な数字ー飛び抜けて圧倒的に重要な数字ーは3だ。すなわち、イニングを区切るアウト数である。スリーアウトになるまでは何が起こるかわからない。スリーアウトになってしまえばもう何も起こらない。したがって、アウト数を増やす可能性が高い攻撃はどれも、賢明ではない。逆に、その可能性が低い攻撃ほどよい。
ここで、出塁率というものに注目してほしい。出塁率とは、簡単に言えば、打者がアウトにならない確率である。よって、データのなかで最も重視すべき数字は出塁率であることがわかる。出塁率は、その打者がイニング終了を引き寄せない可能性を表している(P.102)。

(前略)誰もがわかっているはずだが、明らかなエラーをしない才能など、メジャーリーガーにとって重要ではない。極端な話、もしエラーを記録されたくなければ、動作を少し緩慢にしてボールに追いつかなければいい。
<エラーをするのは、何か的確なことをした場合に限られる。正面に来たボールを落としたとしても、それは、的確な位置に守っていたから正面に来たのである>(P.115)。

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