『ルポ中年フリーター』

『ルポ中年フリーター』
小林美希

読後の感想
1975年生まれのフリージャーナリストが書いたインタビュー多めのルポ。インタビューはおおむね、不安定な雇用→不可避的なトラブル(病気、過労、家族の事情、妊娠)→非正規雇用、となり、その後は非正規雇用→スキル、キャリア積めない→正規社員になれずに時間が過ぎていくという悪循環の繰り返しというストーリーで展開しており、多くの事例が載っている割にはケースが似通っていると感じました。
逆に、事例選定よりも、数値評価はとても丁寧に書かれており、実は分析に長けた方なのではないかと思いました。

三五~五四歳のうち、非正規雇用労働者として働く「中年フリーター」は約二七三万人に上り、同世代の一〇人に一人を占めている。この数字に既婚女性は含まれていない。同年齢層の女性の非正規で、扶養に入るための「就業調整をしていない」人は四一四万人もいることから、潜在的な中年フリーターはより多いと思われる(P.012)。

この手の構造上の問題について提言する際には、個人的な問題を解決するために社会全体が動かないといけない的な、若干説得力に欠ける論旨になっていしまうことがままあるのですが、この本の文脈は、ロスジェネ世代(1968~1977年生)が65歳になると、生活保護受給者は77万人となる見込みだし、社会保障給付費は現在の約1.6倍、介護費が2.4倍、医療費が1.7倍、年金が1.3倍もかかるようになる、という政策上の帰結として捉え直すことによって、政治的な促しを求めているため、非常に説得力のある流れになっていました。

あと第三章の「良質な雇用はこうして作る」は、この本自体の論点からかなり外れており蛇足でしたね。大きく取り上げられている3つの事例のうち、2つが茨城県の企業というのも、作者の茨城愛を強く感じる結果でした。

なお、初めて知ったデータとして、文部科学省の「学校基本調査」の内容がありました。
今まではいわゆる「大学卒業後の就職率」ってぼんやり見ていましたが、2012年度からは就職者を「正規の就職者」と「正規の職員等でない者(雇用契約が一年以上かつフルタイム勤務相当(一週間の所定労働時間が四〇~三〇時間の者))」を区別しているとのこと。つまり、2012年以前の就職率は「一年以上の雇用契約」であれば「正規」「非正規」がごっちゃになっていたということらしいのです。データのとり方区分の問題なので今更しょうがないですが、なんか怪しい数字のような気がしてきました。

目次
序章
国からも見放された世代
第一章
中年フリーターのリアル
第二章
女性を押さえつける社会
第三章
良質な雇用はこうして作る
終章
中年フリーターは救済できるか

印象的なくだり

非正規でも安心して働くことを支える仕組みがある。
労働組合が運用している共済だ。たとえば日本医療労働組合連合会では、医療や介護職場などの労働者に向けた「医労連共済」を運用している。労働組合に入ることが共済の加入条件となっており、非正規雇用労働者でも組合員の家族でも加入できる。
「生命共済」「医療共済」「交通災害共済」をあわせた「セット共済」の掛け金は、最小で月額八〇〇円と加入しやすい。インフルエンザなど病気で五日以上休んだ場合でも、休業給付が受けられるのが特徴だ(P.044)。

http://www.iro-kyosai.jp/
これです。

アクサ生命の調査(「オトナの女のリスク実態調査」)では、三〇~四〇歳前後の独身女性が結婚相手に求める条件を示している。
上位を見ると、一位「価値観」(六一、八%)、二位「金銭感覚」(二七%)、三位「雇用の形態の安定」(二六、三%)の3Kとなっている。かつてバブル期には「高収入」「高学歴」「高身長」を3Kと呼んだが、これらはそれぞれ九位、一九位、二〇位とすっかり影をひそめた(P.060)。

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