『なぜこの店で買ってしまうのか―ショッピングの科学』
早川書房
パコ アンダーヒル, 鈴木 主税
読後の感想
読む前は、よくない品物をマーケティングの力で売ってしまう、みたいな印象でしたがまったく違っていました。
店側の視点よりもむしろ、毎日買い物をするのに、どのように買い物をしているのか考えたことがなかったので、客の視点での新発見が多かったです。
特に、膨大な買い物客のデータを基に、フロアの構造、商品の置き場所からポップまでを考える。あくまで「売り物」のせいにする単純な考えでないところが、非常に好感が持てました。最後の(P.338)部分は、時間がきちんと考慮されているところがとどきっとしますね。
この本のタイトルにある「科学」たるゆえんは、事象を観察し法則の発見にある点だと感じました。あくまでマーケティングは発明ではなく、発見であり、新しいものを作るのではなく、いまの問題点を解決するだけという姿勢が非常に印象的です。ある意味、人間の行動学としての内容で、予想外のおもしろさでした。
中でも、10章の老人をテーマにした章は、先見の明に驚きました。思い当たる節ばかりで、きっと的中するような気がします。
印象的なくだり
ショッピングの科学の背景にある第一の原則は、単純そのものだ。すべての人間には共通した生理的、解剖学的な能力と傾向と限界と欲求とがあり、ショッピング環境はこうした特徴に合わせなければならないのである。
言い換えれば、商店や銀行やレストランなどの空間は、ヒトという動物の特性になじむようにする必要がある。客には性別、年齢、収入、趣味や好みなど、外見的な相違がいくつもある。だが、それよりも共通点のほうがずっと多いのだ。この事実と、それにともなう考えー店は使用者の生物的な特質を反映すべきだーは、わざわざ言うまでもなく、わかりきったことではないだろうか?つまるところ、こうした店を設計、計画、経営するのは人間で、そのほとんどは、ときとして自分自身が買い物客ではないのか。すべては正しく行われて当然だと思える(P052)。
そこで教訓。新作が欲しい客に、他のもので気をそそろうとしてもうまくいかない。さらに大事な教訓。どれほどマーチャンダイジングに工夫をこらしたところで、買い物客に本来の目的の遂行を思いとどまらせることはできない。いちばんいいのは、それにつきあうことだ(P108)。
相乗り販売を狙え
書店なら、主な対象読者の性別で各売り場を配置するといい。つまり、コンピュータとスポーツとビジネスで一つ、セルフヘルスとダイエットおよび栄養と健康と家庭で一つというぐあいである(どちらが男性か女性かは読者の想像におまかせする)(P282)。
(前略)理論上は、もっとも品質のいいブランドならそれこそサルでも売ることができるのだ(P284)。
商業の世界のプリンスといわれるジョン・ワナメーカーがかつて言ったことだが、(私が簡単に言いかえると)、彼の広告活動の半分は無駄だった。だが、どれがその半分かは自分でもわからないという。現代の販促マテリアルやマーチャンダイジングの戦略に関しても、それと同じことが言えるのである(P289)。
平積みは本の見せ方としてはすばらしいが、買わせるという観点からすれば完璧とは言い難い。平棚に商品を補充する係の店員は、できるだけきっちりと仕事をしようとする。まさに命がけできれいに並べようとする。その結果、客は本を手に取るのさえ気がひけることになる。誰かが一所懸命にやった仕事を台なしにしてしまうような気になるのだ。われわれは書店の調査で何度もビデオ撮影をしたが、本の山に近づく客に、ためらいの気持ちがありありと見てとれた(P321)。
競争相手は同業者だけだと信じている商店主は、危険なほど視野が狭いと言わざるをえない。実際、小売店の競争相手になるのは、消費者が時間と金を費やすもののすべてなのだ(P338)。