『氷点(上)(下)』

読後の感想
三浦綾子の代表作。正に大衆文学の内容なのに、
人間の原罪なんて小難しいことをテーマにしようとするもんだから、なんか最後がごにょごにょになってしまっていました。
実は高校生のときに読んだことの有る作品。
以前は読んでも何とも思わなかったのに、いま読むと違ってくるのは自分が成長したから?なのかな?と強く思いました。
具体的には、高校生のときは村井も啓造も夏枝も許せなかったのだが、今なら夏枝はともかく村井も啓造も許せる気持ちになっていたところ(男女の差なのかな?)。
また、辰子の生き方にも当時は嫌な感じがしていたのですが、いま思うと自然体で運命を受け入れている節もあるのかなぁと感じられるようになりました。
それにしても文学でブームが起こるとは、時代か。

印象的なくだり
(結局は、復讐しようとした自分が、一番手痛く復讐されることになるのではないか?)(上P320)。

社会が複雑になればなるほど、個人の人格も価値も無視される。その人間でなければならない分野はせばめられて行くだけなのだ(下P210)。

よそ目には、円満な模範的な家庭と思われながら、生活してきているということが、考えてみると不思議だった。案外どこの家庭にも夫の不貞、妻の浮気、嫁姑の不仲、子供の非行など、人には聞かすことのできない恥ずかしい話があるかも知れない。けれども人びとは、何とか一応の体面を保っているのかも知れない、と啓造は思った。その、かくされたドラマが、何かの動機で自殺、家出、殺人、離婚などという形になった時、世の人々ははじめてそのことに気づくのではないかと思うと、啓造は今更のように、陽子を引きとった自分が恐ろしい人間に思われた(下P276)。

原罪とは法にふれるような罪ではない。人格者啓造の心の中に巣食っている「この恐ろしい思い」なのである(解説 P368)。