イリュージョン―悩める救世主の不思議な体験
リチャード バック
集英社
読後の感想
一言でいうとまさにイリュージョン。
もやもやした読後感が残る不思議な小説です。
ジャンルとしてはサンテックスの「星の王子様」に似ているのだけど、あの本ほどファンタジー感はありませんでした。
たまに出てくる「ガソリン」や「3ドル」なんて単語が現実に引き戻しているのでしょうか。
それでいて肝心なところがぼやけているので、何かひっかかりを感じながら読み進めていきました。
本来はこの本から受ける教訓ではなく、この本を読んで「どう思うか」が重要なのであって
実はこの本は触媒にしか過ぎないはずなのですが、本の内容が奇抜すぎて、どちらかというと本に引き込まれる印象でした。
ところで、この本には宗教的なバックグランドがないと分かりづらいところがいくつかあります。
著者が想定している読者層であれば当然分かっているはずなのですが
やはりそこらへんは、訳者の力量、といったところでしょうか。本書は非常に分かりやすかったです。
ところどころ説教臭くなりつつも、それでいて全体を通してのユーモアは、「夢をかなえるゾウ」みたいな印象を受けました。
なんだかんだ書きましたが、子供や細君にも読ませてあげたい本です。
印象的なくだり
(前略)書くことなんて、すこしも楽しくはない。考えることに背を向けて、無知の側にいられるとしたら、そして、考えるドアをあけずにいられるとしたら、ぼくは鉛筆を手にとることさえしないだろう(P008)。
「どこにあった言葉でも、僕が引用するのは真実さ」(P050)。
学習はすでに知っていることの発見である。
行為は、知っていることの実践である(P058)。
責任を回避するいちばん良い方法は、「責任は果たしている」と言うことである(P060)。
そう言ったときの彼はひどく孤独に見えた。生きていながら、これほど孤独な男は見たことがなかった。彼には、食べものも、住まいも、金も、名声も必要なかった。彼はただ自分の知っていることを話したいだけだったのだ。ところが、誰ひとりその話を聞こうとしてくれなかった(P094)。