読後の感想
著者は警視庁の元・捜査一課長の久保正行さん。
昭和46年に警視庁の刑事になってからずっと捜査第一課で約40年間捜査に携わった
いわゆる「たたき上げ」の方です。
警視庁の捜査第一課は警視庁警察官の中でも超エリート。
捜査第一課に配属されると、「S1S」というバッチを拝領するそうです(本の表紙に載っています)。
意味は、Search 1 Select。選ばれし捜査第一課員というところでしょうか。
ちなみに捜査第一課には七部署あり殺人や強盗、暴行、傷害、誘拐、
立てこもり、強姦、放火などの凶悪犯罪を扱うところです。
で、著者の久保さんはこの捜査一課課長で最終的な判断を下すお仕事をしていたわけです。
久保さんが書きたいことは「額に汗は流れているか」。
おそらく地道な捜査や、気の遠くなるような丹念な調査をしてきたのでしょう、
古い事件も細部まで細かく書かれており、記憶ではなく記録を基に
書かれたものであることが一読して分かります。
数々の時間が描かれていますが全てを通して触れられているのは、刑事が仕事に取り組む姿勢です。
この本で初めて知った意外な一面は、警察官は思っているよりも験を担ぐということ。
例えば、捜査が長引かないように事件解決まではウドンやソバなど長いものは食べないとか
ビールは、犯人を意味する★(ほし)のマークのものしか飲まないとか。
あと、刑事訴訟法を知っているとより著者の言いたいことが伝わってきて良かったです。
おそらく公判が維持できないために、犯人だろうと狙いを定めつつひたすら証拠を集める話や
決定的な証拠があっても、被疑者に自白させず、後々の公判で
悪性格を立証するために使うテクニックなど、捜査の実際が非常によく分かりました。
ちなみに今は日本航空のコンプライアンスの部門にお勤めだとか。
いわゆる刑事向けに書かれた本ですが、「もっと情熱を持て」と言う部分は
刑事以外の人にも何かしらぐっとくるところがあるはずです(ありました
熱いです、本当に。
印象的なくだり
「殺しの手」とは、第二〇代鑑識課長・故・芹沢常行氏が、捜査や鑑識の講習時に口にしていた言葉です。
私も昭和四六年の捜査講習で次のように習いました。「『殺しの手』とは、殺してから犯人が何らかの都合で死体を移動したためにできたもので、
そのような手が、殺しを立証する手(手段)にもなるから、『殺しの手』というのである。手だけでなく、足の乱れや着衣の乱れでもあるのだ。
刑事を続けていれば必ず遭遇する『殺しの手』、忘れるな」(P.043)。
バラバラ死体の発見
平成一〇年五月三一日午前一〇時三〇分、江戸川に死体らしき物が入ったビニール袋が
流れているという一一〇番通報がありました。
河川における事件の管轄は、通常河川本流の中心線で分かれています。
遺体を早く引き揚げなかったために川の底に沈んで所在不明になってしまったり、
流れによっては隣の警察署管内に移動してしまうこともあります。昔、川に浮いている遺体を扱いたくないために木製の警棒で
遺体を対岸に押し流そうとした警察官がいました。バランスを崩してそのまま川の中に落ちた彼は、泳ぎが不得意で、
必死で犬かきをしてしがみついたのが遺体でした。
しかし、遺体は水流の力などによってか衣類はなく全裸。
腐敗が進んでいて、手を掛けたら皮膚が剥けて大変だったといいます。
神様仏様と叫びながら遺体にしがみついて、何とか一命を取り留めましたが、
制服に付着した皮膚は洗っても洗っても落ちなくて大変だったと真剣な表情で語っていました。遺体を粗末に扱うと、天罰が当たる一例です(P.141)。
犯行日を特定できる資料として有効なのは、購入レシートや販売の日付がある物で、その最たるものが冷蔵庫です。
日付が表示された食品やそれらの保管状況によって生活実態がわかるからです(P.145)。
なるほど。
刑事ドラマなんかで使えそうなネタです。
<アルプス電気創始者 故・片岡勝太郎氏>
・人は自分の生きる時代を選択できない。時代と共に生きる(P.295)。