『サウルの息子』

『サウルの息子』

監督
ネメシュ・ラースロー
脚本
ネメシュ・ラースロー
クララ・ロワイエ

レビューは3作目(2016年)、通算23作目。

鑑賞のきっかけ
レンタルビデオ店での陳列を見て。

鑑賞後の感想
カンヌ国際映画祭でグランプリを取った作品です。
第二次世界大戦時にポーランドのアウシュビッツ強制収容所で無理矢理ゾンダーコマンド働かされたハンガリー人サウルの二日間を描いた作品です。

ある日サウルは収容所の中に息子に似た遺体を見つけます。その遺体をユダヤの教えに従ってラビにカーディッシュ(お悔やみの言葉)をしてもらうため東奔西走するという話でした。

内容は筆舌に尽くしがたい衝撃でした。

強制収容所に列車で運ばれたユダヤ人たちは、まずはシャワーを浴びろと建物の中に連れて行かれます。その際に誘導したりするのもサウルらゾンダーコマンドの役割です。運ばれてきたユダヤ人たち着ている洋服をフックにかけさせられてガス室に送られます。そのときに混乱が起こらないように、後で洋服を取るからフックの番号を覚えておけ、と言われるのです。こうやってだまされたユダヤ人たちはシャワーを浴びると称されて混乱もなくガス室に送られていくのです。

ガス室に入れられた後、外から鍵が掛けられます。そして致死性のガスが噴射されるのです。中からは叫び声や悲鳴、ドンドンと扉をたたく音がこだまします。そんななかゾンダーコマンドは粛々と、フックに掛けた洋服から貴金属類を回収し、遺体を焼却炉に送るのです。本当にひどい。

別の本で読んだのですが、ガスがもったいないため濃度を薄くし、その結果致死に至るまでの時間は10分から12分ほどだったそうです。より長く苦しむ結果になった話を聞いて心が痛くなりました。

映像として、カメラはほぼ全編サウルの後ろ側から映しており、映像としては目の前のものが焦点が合わずぼんやりとしか見えません。

そして、スクリーンのサイズもほぼ正方形に近く、サウルの後頭部以外はほぼ何も見えません、と同時に、目の前で起こっている虐殺からも目を背けることもできませんでした。

いわゆるサウル側からの視点しか見えないため、否が応にも一人称的に視点しか見れません。それがより一層何が起こっているか分からない恐怖感を増していました。

アウシュビッツに関しての本を読むと、生き残った人は目の前の現実を直視することが辛く、記憶から抜け落ちている部分もあるということが書いてありましたが、サウルにとっても、目の前で起こっている残虐な行為は焦点が合わない事象なのでしょうか。

画面が俯瞰されたのは、最後のシーンだけでした。

ポーランドの農民の子にカメラが向けられたシーンだけが、サウルを映していないシーンだったのです。そのシーンの時に、サウルに何が起こっているかは、映画を見ている人が想像するしかないのです。

衝撃的だったのが、ガスでは処理が追いつかなくなり、大きな穴を掘ってユダヤ人たちを生きたまま穴に追い立て射殺し埋めていくシーンです。本当にこの世の地獄かと思いました。

ただ一つちょっと入り込めなかったのが、サウルがラビを探していろんな人に迷惑をかけ続けるところでした。ギリシャの背教者はそれによって殺されてしまうし、レジスタンスたちが脱出用に用意した火薬はなくしてしまうなど、周囲の人にとってサウルはいい迷惑だったと思います。この部分が気になってしまい映画を楽しめなかった部分はちょっとだけマイナスでした。

とはいえ、アウシュビッツを描いた作品としては必ず後世に残る作品だと思います。

5店満点中、5点です。

http://www.finefilms.co.jp/saul/