『法務担当者のためのもう一度学ぶ民法(契約編)』
田路 至弘
商事法務
読後の感想
気付いたことは実務的な観点から書かれた本は、暗黙知の塊であるということ。経験則が支配する分野は、泣き事言わず黙って本を読みまくれ、ということ。才能とかいう空手形は切れないということ。
文章は平易で読みやすく、薄っぺらい点は否めないが、それでも入門書としては最適だと思いました。
知識になるくだり
MOUやLIに断り書きを入れるのであれば、「当事者の一方から何らの理由なくして交渉を中止した場合においても相手方から損害賠償をすることはできない」」という趣旨の条項を入れておかねばならないのである(P.036)
最近は日本の契約書の実務もアメリカの弁護士の影響を強く受けて、英米法系の契約書の体裁になりつつある。
形式的によく真似されているのが前文である。いわゆるwhereasクローズというものであるが、当事者が契約締結に至った動機と約因(consideration)を謳う部分である。
英米法下の契約書は約因がなければ無効となるので、そういうこともあり、こういう部分が設けられている。
日本法では、約因という制度はないので、本来はこれは必要ないのであるが、前文を設ける契約書も増えてきた(P.107)。
Rep&Warrantyの効用
英米法流の契約書の作成方法をもっと直接的に取り入れたのがrepresentation&warranty clauseである。レップ&ワランティとか、レプワラなどと略されて呼ばれることも多い。
英米系の契約書にはこの条項が通常規定されている。
何が定められているかというと、いわば契約を締結するための前提条件のようなものである。
当該契約当事者が、当該契約を締結するための前提条件のようなものである。当該契約当事者が、当該契約を締結するのに法的な障害がないということとか、債務の履行期に至るまでそのような状態を継続することを保証するという趣旨で定められている。
契約の目的である本来の債務ではないけれども、契約当事者にとっては、事実に関する前提として重要視されるべきものが盛り込まれている(P.108)。
契約上、相殺したいと時(特に取引相手の信用状態が危機的な状況となった場合等)に相殺が可能となるよう、期限の利益を喪失させるための条項をきちんと定めておくことが必要である(P.178)。
裁判所の民事調停で、もう1つ特殊用途での利用方法として挙げられるのが反社会的勢力との交渉手段としてである。
(中略)企業の取り得る対処手段として、反社会的勢力相手に債務不存在確認の調停を裁判所に申し立て、彼らを裁判所の調停の場に引っ張り出すという方法がある。
これは意外に効果があるもので(意外にも呼び出し状に応じて出頭してくるものである)、調停申立が民事介入暴力対策としては定番となっている感がある(P.208)。
契約書を作成するにあたっては、自らの請求権に係わる立証すべき事実をできる限り少なく、また立証の簡単な事実をに限定しておくことが肝要なのである(P.214)。
仮差押えの要件
①請求債権(金銭債権)が求められるとき
②保全の必要性があること
しかし、保全の必要性については意外に立証が難しい。
債務者に仮差押えの対象財産以外に目ぼしい資産はない、という保全の必要性について立証したいのだが、それをストレートに証明できるような債務者の貸借対照表等が入手できない場合、債権者側の担当者が色々と調査した結果を当該担当者の陳述書という形でまとめて、それを書証として提出することになる。
陳述書はこのようにピンポイントに証拠書類のない部分を埋めるという働きをするだけではない。
通常は、裁判官に事案を理解してもらいやすいように、申立書には事実の骨子を、陳述書には事案の詳細な中身を書く、という具合に陳述書は保全処分の手続には必要不可欠のものとなっている(P.220)。