『高台の家』

「高台の家」
松本清張

読後の感想
麻布の高台にある家。糖尿病の主人と献身的に介護する妻、そして早世した長男の嫁である義理の娘。
この三人と家に出入りする数々の男性たち。
何とも謎の三人の関係と、男性たちの視線の先、そして糖尿病の病状のくだりと
流石松本清張らしさがでていてドキドキしながら読みました。

映像化も多く、割と有名な作品なのですが、
今まで読んでいた作品集の中には収録されていなかったため未読でしたが、今回ようやく出会えました。
作品の肝は、女性の抑圧された性に対する社会の考え方だったので、
若干時代背景が今と違い戸惑うことがあるかと思います。
僕自身が家庭内のドロドロが余り好きでないことも相まって、もう一歩というところでした。

「獄衣のない女囚」
女だけのアパートで起こった殺人事件の真相。
男性だけとか女性だけの公共の共同アパートそのものがちょっと想像しにくく、
その閉鎖的な空間というものがいまいち雰囲気がつかめませんでした
(しかも、話の中心や動機がその閉塞感なので余計に)。

それにしても清張の書く刑事は、みな想像力豊かで、机上の空論の上に
空論を重ねていくという「まぁ、小説だからね」感が満載で僕はすごく好きです(誉めてます
こっちが映像化できないのは、おそらく
下着泥棒がよく登場するからではないかだろうか、と邪推してみたりしなかったり。

『聞かなかった場所』

読後の感想
著者が亡くなったのをいいことにテレビ局があっちこっちと設定を変えて
ついには主人公の性別まで変わってしまい、元ネタがなんなのか良くわからないことで
一部の松本清張マニアには有名な一冊(末尾参照)。
久しぶりに手を取ったのは、先日読んだ『インシテミル』の読後感が
何にもなかったから…。
というわけで、この一冊。
いわゆる小役人が妻の死を契機に、自ら動き推理し、そして手にかけてしまうというお話。
この本の醍醐味はいわゆる主人公の追い詰められ方です。
自分の身を隠そうと良かれと思ってやったことが全部裏目に出て
どんどん立場がやばくなっていってしまい、最後には…

ラスト一ページが圧巻です。

元ネタ→テレビ
小説では主人公は男性→テレビでは女性
小説では主人公の勤務先は農水省→テレビでは厚生福祉省
小説では主人公はノンキャリ→テレビでは局次長
小説では坂道の場所は代々木→テレビでは大塚
小説ではキーとなる場所は連れ込み旅館→テレビでは薬局

『迷走地図』(上・下)

『迷走地図』
松本清張
新潮社

読後の感想
やはりお金と政治がからむ社会派小説が、松本清張の素晴らしさを最も引き出せると感じました。
特に、政治秘書の役割について、様々な含みを持たせながら進む展開や、登場人物が多いにもかかわらず、きちんと喋り方で個性を持たせ、さらに性格付けまで補うのは流石です。
速記、運転手、院内記者などの役割が物語の上で、ジグソーパズルのようにはまっていくのはゾクゾクします。
ただ敢えて苦言を呈するなら、秘書連盟の伏線の置きっぱなし具合と、最後はあんまり納得いきませんが…。

過去に読んだ同じ著者の作品
『共犯者』 感想はこちら

ダ・ヴィンチ→『よつばと』のコンボ

 普段はあんまりダ・ヴィンチ読まないんですが、表紙の『よつばと』の四文字に惹かれてしまいました。

 それほど深くは踏み込んだ特集ではなかったですが、編集者の登場人物への愛が感じられるいい特集でした。そんなに期待せずに読むが吉。
 『よつばと』を知らない人には結構オススメかもしれません。

 ダ・ヴィンチ→よつばと→あずまんが大王→ぱにぽにだっしゅのコンボも期待できます(そうか?

 あと、爆笑問題の日本史原論の特集が松本清張だったので、ワクワクして読みました。
 感想、別に太田光さんの発言の行は不要なのでは?あと田中さんのコメントも、まるでウィキペディアとあとがきや筆者略表を抜き出してきたようなもので、ガッカリでした。

共犯者

共犯者
新潮社
松本清張

読後の感想

 タイトルと同名の短編小説を含んだ短編集。

 短い小説では松本清張のよさを出せていないのではないかと思う。『典雅な姉弟』ではその一片を見出せたが、やはりボリューム不足は否めない。

 この中で一番の作品を選ぶなら「発作」。この中で、ゆっくり人が狂っていく心情が見事に描かれており、流石です。

 権威に固執する能力なき老害、と自分の能力を信ずる狷介不羈の人物が作品の軸をなしていると感じた。

 せっかく松本清張を読むなら、長い作品をじっくりとじわじわと読んだほうが、味わえると思います。