ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
梅田望夫
読後の感想
インターネットが一般化してから起こった出来事が、リアル社会に与えた影響について書かれた良書。
過去のネット上での事実としての出来事が、理由を踏まえて論理的に、そして当然の帰結であると書かれている。既に起こったことの原因を知るということは、これから起こる出来事をより正確に予測できるという意味で、非常に参考になる本でした。
Wikipediaの記述など情報自体がやや古いところもありますが、本質は現在も同じであり、本質自体を捕らえることが目的なので、影響はほとんどないと思います。
久しぶりに出会った素晴らしい本でした。
印象的なくだり
アイデアの起案自身というのはほとんど評価されない。アイデアっていうのは当然、難しい問題を含むものだ。
その問題を解決して、動く形にして初めて評価される。口だけの人はダメだな(P088)。
ブログが社会現象として注目されるようになった理由は二つある。
第一の理由は、「量が質に転化した」ということだ。
第二の理由は、(中略)グーグルによって達成された検索エンジンの圧倒的進歩。もう一つは、ブログ周辺で生まれた自動編集技術である(P138)。
「ニーズがあるのは、専門家そのもののスクリプトではなくて、それを伝えるスクリプトなわけで、単純にいえば、専門と一般を繋ぐブログということになる。」(P149)
私たちが何かを知りたいと思ったとき、まず検索エンジンに向かうというライフスタイルは広く定着した。それによって、深い関心を共有する書き手と読み手が、検索エンジンに入力された「言葉の組み合わせ」を通して出会うことまでは可能となった。
しかし考えてみれば、検索エンジンというのは、実に能動的なメディアである。問題意識、目的意識が明確な人にはいい。
このことについて知りたい。あのことについて調べたい。そういう欲求がある人にとって素晴らしい道具だ(P154)。
リアル世界には地域経済格差が存在する。しかしアドセンス世界には地域経済格差がない。
アドセンスの原資は、主に先進国企業が支払う広告費でできている。つまりドルやユーロでアドセンス経済圏はできあがっている。
よって、生活コストが安い英語圏の発展途上国の人々にとっては、生活コストの比して驚くほどの収入がアドセンスによってもたらされる。
ネット世界で、あるトラフィックを集めて月に五〇〇ドルを稼げるとすれば、そのサイトを発展途上国の人が運営していても五〇〇ドル、先進国の人が運営していても五〇〇ドルである。
ネット上に地域という概念は存在しないからだ。これは発展途上国の人にとって天恵とも言うべき仕組み。
グーグルはこのことをもって、「世界をよりよき場所にする」とか「経済的格差の是正」を目標とすると標榜するわけだ(P160)。
「実際ブログを書くという行為は、恐ろしい勢いで本人を成長させる。それはこの一年半の過程で身をもって実感した。(中略)ブログを通じて自分が学習した最大のことは、「自分がお金に変換できない情報やアイデアは、溜め込むよりも無料放出することで(無形の)大きな利益を得られる」ということに尽きると思う。」(P164)
知的生産の道具としてのブログ
(1)時系列順にカジュアルに記載でき容量に事実上限界がないこと、
(2)カテゴリー分類とキーワード検索ができること、
(3)手ぶらで動いていても(自分のPCを持ち歩かなくとも)インターネットへのアクセスさえあれば情報にたどりつけること、
(4)他者とその内容をシェアするのが容易であること
(5)他者との間で知的生産の創発的発展が期待できること(P166)。
六次の隔たり(6 Degrees of Separation)という有名なアイデアがある。「地球上の任意の二人を選んだとき、その二人は、六人以内の人間関係(知己)で必ず結ばれている」というもの(P201)。
ネットが悪や汚濁や危険に満ちた世界だからという理由でネットを忌避し、不特定多数の参加イコール衆愚だと考えて思考停止に陥ると、
これから起きる新しい事象を眺める目が曇り、本質を見失うことになる(P206)。