『ノードストローム・ウェイ―絶対にノーとは言わない百貨店』

 

『ノードストローム・ウェイ―絶対にノーとは言わない百貨店』
ロバート スペクター
パトリック・D. マッカーシー
山中 カン
犬飼 みずほ

読後の感想
ワタミの会長、渡邊美樹さんの本の中で紹介されていたので興味を持って読み始めました。
若干誇張されているものの「絶対にノーと言わない百貨店」として有名なノードストローム。
サービス業に従事する人なら(どんな意味でも従事しない人なんてほんの少数だけど)
忘れてはいけない顧客重視の精神が至る所に発揮されている印象でした。

但し、誤解を恐れずに言うと、このやり方は今後は厳しいと思います。
ノードストロームのやり方は、いわゆる顧客重視ですがアプローチの仕方が限定されています。
その中でも、「顧客が望んでいるもの(品物とは限らない)を探してくる」ことを重要視しています。
例えば新製品が発売されたら顧客に知らせる、とか、顧客の好みのものを代わりに探してくるとか。
つまるところ、この手のサービスはどんどんビックデータが代わりにやり始めています。
個人の履歴や好みを調べ、広告表示させたり、と。

実際に、お店に行ってほしいものがなかった、じゃあ「お取り寄せしましょうか」と言われても
実は自宅でネットで注文したほうが早い(そしてネット注文は大した手間ではない)時代が既に到来しています。

端的に言うと、本書に書かれているノードストロームの時代は、顧客が先に要望を挙げてそれに店員が応える流れでした。
しかし、いまは多くのものが満ち足りてしまい、逆に店員が潜在的な要望を掘り起こすことが重要になっているのでないでしょうか。

今のような時代では、ノードストロームのアプローチ方法は逆に「ネットよりも不便」と感じるのではないかと思ってしまいました。
なので、時代に合わないなと感じました。

印象的なくだり

ノードストロームは、顧客サービスという視点から経営を見直していった。
サービスを徹底するため、顧客に接する機会の多い販売員の立場・意見を尊重している。
売り場における全権を委譲し、顧客サービス第一の姿勢で行動するように指導した。
例えば、返品は、いかなる事情においても―たとえ顧客の都合によるものであっても―上司の許可なく受けつけてよいこと、お客様が求めている商品が売り場にない場合には、ライバル店から購入してでも要求に応えること、などである。
自分の売り上げ目標は自分で管理させ、インセンティブを与えるための報酬システムを確立した(P.002)。

マッカーシーの名を有名にしたのは、彼が顧客の名前やサイズ、好みの傾向をすべて覚えているからだけではなく、彼が人々の心を自分の身に置き換えて考えることのできる人間だからである(P.030)。

コ・チェアマンの一人、ジョン・ノードストロームは言う。
「流行の商品も、あらゆるサイズが揃っていなければ何の意味もな。
自分に合ったサイズがないかぎり、他のサイズがいくつあろうと、顧客は関心も払わない。
それが小売業というものだ。」(P.047)。

小売業の厳しさ。

「英雄的」行為の事例の中には、真実でありながら、聞いた人々に真偽を疑われているものもある。
その最たる例は-しばしば全国紙に引き合いに出されるほど有名な逸話だが-ノードストロームの店員が扱っていないはずの自動車のタイヤの返品をにこやかに受け入れ、返金までしたという逸話である。
しかも、この話は真実だ。
七五年、ノードストロームはノーザン・コマーシャル・カンパニーからアラスカ州の三軒の店を買い取っている。
タイヤはそこで売られたものだった。
つまり、タイヤは店がまだノーザン・コマーシャルのものだったときに買われ、ノードストロームのものになってから返品され、ノードストロームが返金したというのが事の経緯である。
事実に尾ひれがついて神話になった例だろう(P.049)。

例の有名なエピソード。小売店業に従事したり、この手の本を読むを割りと多く目にします。
詳細を聴いてみると、そんなにびっくりするほどの話ではないようでした。ムムム。

返品がごくたまに販売員のストレスになることもある。
「お客様の中には、ドレスを二年間借りたあげくに返しておいでになる方もいます」。
サンフランシスコ郊外、コルテマデラ店のコレクターズフロアでデザイナードレスを販売するジョイス・ジョンソンは言う。
「でも、返品を一種のゲームと思えばいいのです。
商品を返されたとしても、にこやかに受けつける術を身につけることです。
なぜなら、そういうお客様は必ずまた店に来てくださいます」。
これは、のが二店舗経営に乗り出し、この寛大な返品制度を始めたときに、エヴェレット、エルマー、ロイドの三兄弟が思ったことと同じである。
彼らは、明らかに非常識で理不尽な返品への対応にうんざりし、もし精算の手間や苦情に対応する仕事がなければ、仕事はもっと楽しくなるはずだと考えた。
「そこで、店員にその場で精算させることにした。
そうすれば、顧客はその先、その店員のことも贔屓にするだろうと考えたのだ」とエルマーは当時を回想する。「当時、店員にはこんな指示も出した。『お客様が何か気に入らないことがあって、それについて苦情を言われたら、必ずその顧客の要望に答えること』」。
そして、返品制度実施から一年後、兄弟は返品に要した一年間の費用を算出し、このまま返品制度を続行してもやっていけると判断した。
以来、小売店の大半が返品を渋るなか、ノードストロームは返品制度にじっと耐え、むしろこの制度を費用のかからない恰好の口コミ広告にしてしまった(P.066)。

返品制度はただの顧客サービスではない、費用対効果をじっくり検討し、従業員の心理的ストレスも軽減する企業の政策だと知ったとき、本当にびっくりしました。
つまるところ、「ただの親切なお店」ではなく、しっかりしたビジネスだったということ。
ノードストロームのやり方を「サービス業に従事する人に対しての精神論(お客様に奉仕しろ、だとか)」としてしか伝えられない経営者は今すぐ自分の会社の政策を省みないといけない。

上席副社長兼南カルフォルニア地区担当のゼネラルマネジャー、ジェイミー・ボーが常にストアマネージャーたちに言うのは、くれぐれも部下に細かすぎる指導を行わないようということだ。
「細かすぎる指導は販売員から義務を取りあげることですし、それでは部下は司令にまで成長しません。気がついたときには部下は歩兵だけだったという結果になってしまいます。われわれがベストを尽くしていれば、配下の人々は司令にまで育ちます。というのも、自分で仕事をコントロールすることが身につくからです。(後略)」(P.072)。

顧客サービスを題材とした”It’s Not My Department”の著者ピーター・グレンは、ノードストローム以外の会社のマネージャーが「部下を認める」という大事な職務を忘れていることを批判している。
「サービス業に従事している人間たちが顧客にお粗末なサービスをしているのは、それが大きな原因の一つだ。部下たちが行う顧客サービスは、彼らがボスからどう扱われているかを反映するもので、彼らはボスから扱われたとおりのことを顧客にもする」(P.090)。

●ノードストロームは販売員を採用して彼らを好感の持てる人間に教育するよりは、好感の持てる人物を採用して彼らに販売を教えている。ノードストロームは「スマイルを採用し、販売技術を教えている」と言われている(P.168)。

至言。

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『君はなぜ働くか』

『君はなぜ働くか』
渡邊美樹

読後の感想
正直なところ最近色々と労働問題でブラック的な部分が見え隠れするワタミには余りいい感情は持っていません。
でも、会長の書いた『夢に日付を!』はとっても大好き。
そんなプラスとマイナスの間で揺れ動く乙女の気持ちで読み進めました(おおげさ

繰り返しになりますが、『夢に日付を!』は本当にいい本。
僕は多くの影響をこの本から受けていますし、今でもたまに読み返すほど読むと元気が出てくる本です。
と、まぁここまで書いて分かったのですが、ワタミでの労働問題は僕みたいにちょっとばかり熱狂的になった人が無理しちゃうんでしょうね。

なにやら言い訳がましくなってしまいましたが、著者がどういう人であったとか、その後どんなことをしでかした、という本の内容以外の情報と、本の内容や自分が受けた印象は混同したくないなぁ、ということでございます(逆説的に言うと混同せざるを得ないということ

で、内容。

仕事に対しては相変わらず厳しい人で、僕のような甘ちゃんからすると本当に尊敬できます。
「厳しい」というのはどういう意味かというと、決して「他人のせいにはしない」。
うまくいかないのは「(常に)自分のせい」だということです。

たとえば

とどめを刺せる人間になれ!
「とどめを刺せ!」私は早朝の業革会議でよく叫んできた。社員にくり返し伝えているのである。
要するに、「やりなさい」で終わってしまうと不十分なのだ。やりなさいだけじゃ、とどめは刺さらない。やったかどうか、それを現場に行って現実を見なければいけない。さらに、現場で現実を見て、「よし、やった」と確認しても、まだそれだけでは不十分である。さらに、一週間後にまだ「やっているか」を確認して、そこで「とどめ」を刺す。それが仕事というものだ(P.100)。

これは「他人がやらない」という結論に帰着せず、「他人がやるように自分が仕向けていない」と帰着しています。
これは言われるほうからすると厳しい。
そう言われると、何か言おうとしても、全て言い訳がましく聞こえてしまうからです。
良くも悪くも「外部環境のせいにしない」のはそういった厳しい世界で生き抜いてきた証なのでしょうが、社員全員に求めるのはちょっとどうかなと思いますが。
(自分にはそういう態度であっても、他人には強いないというのが正しい姿勢かと

印象的なくだり

夢とは、見続けるものではなく、実現させるべきものだ。夢に日付を入れて、今日の行動を変えていくのである。当然、そのプロセスにおいて、どうしても計画に狂いが生じてくる。予測不可能な明日なんていくらでもある。それは、そのつど、計画を書き直しながら進むのだ。ただし、”夢の実現”と決めた日付だけは変更してはならないのだ(P.031)。

人生には、「六つの柱」がある。
その六つの柱がバランスのとれた状態であれば、豊かな人生になるだろう、と私は考える。その六つとは、仕事、家庭、教養、財産、趣味、健康である(P.058)。

ビジネスにおいては、数字で考える習慣を身につけることが大切である。
「だいたい」「とても」「少し」「多い」といった副詞や形容詞はビジネスには不要である。
「お客様の来店状況は?」-「かなり入られてます」
「新メニューの注文の状況は?」-「まだあまり入ってきていません」
「かなり」という言葉でどのくらいを思い浮かべるだろうか。当然、きみの「かなり」と私の「かなり」は違ってくる。大雑把な言い方はビジネスには役には立たない。
「お客様の来店状況は?」-「満席率で八〇%です」
最初のうちは、なかなか数字が出てこないのかもしれない。数字を言葉にするには、普段から数字を意識することによって慣れていく。
さらに、シゴトにおいての報告、連絡、相談には「主語と述語」で語ることである。
ビジネスにおいては、結論が重要だからである。もちろん、プロセスも大事だが、まずは「主語と述語」で明確に結論を語る。プロセスを語るのはその後でいい。
そして、語ることには責任をもて(P.107)。

そうそう、語ることには責任が伴う。
口先だけのやつが一番ダメだ。
そう思うようになってから、口は動かさず手を動かすようになりました。

サービスは、マニュアルではない。サービスとは、きみの人間性そのものなのだ。きみが優しくない人間ならば、きみは絶対によいサービスができない。きみが人の悲しみのわからない人間ならば、きみは絶対によいサービスができない(P.121)。

どきっとした。
この人は、「他人からのサービス」に何を求めているのだろうか。