村上朝日堂

村上朝日堂
新潮社
村上春樹

読後の感想
 村上春樹が割とどうでもいいことについて、気楽に書き綴ったエッセイ。毛虫の話題から、ヴェトナム問題まで脱力で書かれています。

 著者の小説の印象とはまた違った側面が表れており、クスッと笑える文章が心地よいです。イラストが安西水丸なのも文体と調和しており、ヘタうまな様子が見事だと思いました。

 相変わらず読んでいると、美味いものが喰いたくなる文章でした。空腹時はオススメできません(笑)。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
梅田望夫

読後の感想
 インターネットが一般化してから起こった出来事が、リアル社会に与えた影響について書かれた良書。

 過去のネット上での事実としての出来事が、理由を踏まえて論理的に、そして当然の帰結であると書かれている。既に起こったことの原因を知るということは、これから起こる出来事をより正確に予測できるという意味で、非常に参考になる本でした。

 Wikipediaの記述など情報自体がやや古いところもありますが、本質は現在も同じであり、本質自体を捕らえることが目的なので、影響はほとんどないと思います。

 久しぶりに出会った素晴らしい本でした。

印象的なくだり
 アイデアの起案自身というのはほとんど評価されない。アイデアっていうのは当然、難しい問題を含むものだ。
 その問題を解決して、動く形にして初めて評価される。口だけの人はダメだな(P088)。
 ブログが社会現象として注目されるようになった理由は二つある。
 第一の理由は、「量が質に転化した」ということだ。
 第二の理由は、(中略)グーグルによって達成された検索エンジンの圧倒的進歩。もう一つは、ブログ周辺で生まれた自動編集技術である(P138)。

 「ニーズがあるのは、専門家そのもののスクリプトではなくて、それを伝えるスクリプトなわけで、単純にいえば、専門と一般を繋ぐブログということになる。」(P149)

 私たちが何かを知りたいと思ったとき、まず検索エンジンに向かうというライフスタイルは広く定着した。それによって、深い関心を共有する書き手と読み手が、検索エンジンに入力された「言葉の組み合わせ」を通して出会うことまでは可能となった。
 しかし考えてみれば、検索エンジンというのは、実に能動的なメディアである。問題意識、目的意識が明確な人にはいい。
このことについて知りたい。あのことについて調べたい。そういう欲求がある人にとって素晴らしい道具だ(P154)。

 リアル世界には地域経済格差が存在する。しかしアドセンス世界には地域経済格差がない。
 アドセンスの原資は、主に先進国企業が支払う広告費でできている。つまりドルやユーロでアドセンス経済圏はできあがっている。
よって、生活コストが安い英語圏の発展途上国の人々にとっては、生活コストの比して驚くほどの収入がアドセンスによってもたらされる。
 ネット世界で、あるトラフィックを集めて月に五〇〇ドルを稼げるとすれば、そのサイトを発展途上国の人が運営していても五〇〇ドル、先進国の人が運営していても五〇〇ドルである。
 ネット上に地域という概念は存在しないからだ。これは発展途上国の人にとって天恵とも言うべき仕組み。
 グーグルはこのことをもって、「世界をよりよき場所にする」とか「経済的格差の是正」を目標とすると標榜するわけだ(P160)。

 「実際ブログを書くという行為は、恐ろしい勢いで本人を成長させる。それはこの一年半の過程で身をもって実感した。(中略)ブログを通じて自分が学習した最大のことは、「自分がお金に変換できない情報やアイデアは、溜め込むよりも無料放出することで(無形の)大きな利益を得られる」ということに尽きると思う。」(P164)

知的生産の道具としてのブログ
(1)時系列順にカジュアルに記載でき容量に事実上限界がないこと、
(2)カテゴリー分類とキーワード検索ができること、
(3)手ぶらで動いていても(自分のPCを持ち歩かなくとも)インターネットへのアクセスさえあれば情報にたどりつけること、
(4)他者とその内容をシェアするのが容易であること
(5)他者との間で知的生産の創発的発展が期待できること(P166)。

 六次の隔たり(6 Degrees of Separation)という有名なアイデアがある。「地球上の任意の二人を選んだとき、その二人は、六人以内の人間関係(知己)で必ず結ばれている」というもの(P201)。

 ネットが悪や汚濁や危険に満ちた世界だからという理由でネットを忌避し、不特定多数の参加イコール衆愚だと考えて思考停止に陥ると、
これから起きる新しい事象を眺める目が曇り、本質を見失うことになる(P206)。

知識ゼロからのジョギング&マラソン入門

知識ゼロからのジョギング&マラソン入門
小出義雄

読後の感想
 かつてマラソンの監督だった人が書いた本。見開き半分が図解になっており、文字の部分もかなりでかいポイント、とても読みやすい。タイトルも一問一答式で簡潔に答えられている。

 これは著者の性格なんだろうけど、設問に対する答えが割と適当。「ジョギングにはなにが必要ですか」という問いに対して「なにもいらないよ。でも、時計はあったほうがいいね」と、ほほえましい回答が笑いを誘う。

 本当の初心者なら軽く目を通しておいても損はない。フォームとか理屈の話はあんまり書かれていません。

参考になった文章

ケガや故障にあわないランニングのしかたを覚えておこう
1.走行距離を延ばしすぎない
2.機能性の高いシューズを選ぼう
3.ウォーミングアップとクーリングダウンを
4.体の手入れを忘れずに
5.太っていたら体重コントロールを
6.痛みがあったら走らない

 1km走ると、体重1kg当たり1kcal消化する。体脂肪1kgは7000kcalのエネルギーを持っている(P069)。

「朝がつらい」がなくなる本

「朝がつらい」がなくなる本
梶村尚史

ISBN978-4-8379-7635-6

読後の感想
 睡眠に関する本の割には、理論的な部分は少なく、実践的なものが多いので、本当に困っている人には大いに参考になる本です。

 原因のタイプ別にチェック表がついているので、自分自身のタイプを判別した上で、対処することができます。なにより精神論に拘泥せず、環境から変えることを主眼においています。環境を変えることはなかなかすぐできませんが、一度はじめて習慣にしてしまえば続くので、有用です。

印象的なくだり
 起きてから14-15時間後に眠気を誘う睡眠ホルモンが分泌されはじめ、その1-2時間後に眠たくなります。
つまり、「夜眠くなる時間は、その日起床した時間で決まる」のです。
布団の中でもんもんとする状態に陥らないためには、「早起きをするために早寝をする」という発想を捨て、「ぐっすり眠るために、まずは早起きをする」という発想を持つべきなのです(P5)。
 そもそも、いい睡眠がとれないようでは、仕事で自分の能力を最大限に発揮することはできません。それどころか、健康を害したり、肌が荒れたり、寿命を縮めることにもなりかねません。
 そうならないためにも、すっきりと起きられない状態が続いているようなら、あえて何かを「捨てる」ことです(P82)。

今日から実践しようと思ったこと
 入眠儀式:この心の準備が眠りを誘う
1.「明日やること」を書き出しておく
2.1日であった「よかったこと」を3つ思い出す
3.明日「着ていく服」「持っていくもの」を準備する
4.枕に向かって「起床した時間」をとなえる(P78)
 寝室を「つねに仕事やストレスのない状況でいられる空間」にしておくのです(P201)。

センセイの鞄

センセイの鞄
川上 弘美

読後の感想
 居酒屋で高校の先生に十数年ぶりに再会したところから始まるセンセイとの物語。大きな出来事もなく、ゆったりとした時間の流れを楽しめる小説でした。

 登場人物の心情と、景色・風景の描写の対比が見事。人物の気持ちを上手に他のものに置き換えて表現しています。言霊が透明感のある単語が多く、読んでいて心地よい。

 洋風の忙しい小説とは異なり、和風の穏やかな文章といった印象。穏やかな割には一文が短くリズミカルで読みやすい。

 実は最後まで読みたくはない作品。中盤あたりの流れをずっと繰り返したくなる。しかし、現実は「ずっとこのまま」なんてことはない、ということが最後の編「センセイの鞄」で強く感じた。

文才を感じたくだり
「しまった、と強く思った。うかつだった。うかつだったが、いやでもない。いやでもないが、嬉しくもない。嬉しくもないし、少し心ぼそい。」(P138)