『減らす技術』

『減らす技術』
レオ・バボータ
ディスカバー・トゥエンティワン

あらすじ
月に100万人を超す読者がいる世界的人気ブログ「Zen Habits(禅的生活)」の著者が、やることを減らして豊かに生きるシンプルライフを提案する一冊です。

読後の感想
結構いい気分で読み進めていたが、途中で「あれ?この話、前に出てこなかったっけ?」と既読感でいっぱいになり、表紙を読み返したら、著者のブログのエッセンスをまとめなおした一冊とのこと。
目次を見ると、原則編と実践編が分かれているものの、あちこちに出てくるモチベーションを保つ似たような精神論にはちょっと残念な感じでした。
もうちょっと本の構成を考え直して欲しいと感じました。

とはいえ、特筆すべきは「関わり合い」への着目点です。一般的にこの手の本は「物を減らすこと」にフォーカスしがちですが、この本は「関わり合い」を減らすことに言及しているということです。実際のものではなく、心の中や脳の中の空き容量を増やすことに着目しているあたりは眼から鱗でした。
おそらく筆者も「関わり合い」を減らすことをに苦労したのでしょう、「関わり合い」を減らす部分だけ、断り方、減らしかたの具体例が非常に充実していました。

今日、あなたの人生に大きな影響力のある変化をひとつだけ起こしたいなら、生産性や効率を上げて、やりたいことをやれるような人生にしたいなら、「関わり合い」を減らそう。
(中略)
毎日は、関わり合いの嵐で、人生に余白はゼロ。時間とエネルギーを奪われてもうへとへとだ。だれかのリクエストに「イエス」と答えるたびに関わり合いが生まれ、あなたの時間は奪われていく。
しかし、今抱えている関わり合いは、一度に全部引き受けたわけではない。
ひとつずつ、ゆっくりと増えてきたのだ(P.153)。

印象的なくだり

人生をシンプルで生産的にする「6つの原則」
原則1 制限する
原則2 本質に迫ることだけを選ぶ
原則3 シンプルにする
原則4 集中する
原則5 習慣化する
原則6 小さくはじめる(P.011)。

「もっとも重要なタスク(MIT)」とは、その日ごとに絶対達成したいタスクのことだ。
私は毎日3つ、MITを選んでいる。とりあえず3つからはじめて様子を見てみるといい。
「今日は何がなんでもこれをやり遂げたい!」というものがMITだ。
だからこそ、私はいつも朝一番にとりかかる。朝起きて、水を1杯飲んで目を覚ましたらすぐMITだ。
(中略)
さて、MITを選ぶときに私が気をつけているポイントはこうだ。
3つのうち少なくともひとつは、自分の人生のゴールに関連しているものを選ぶこと。
ほかの2つは仕事関連でも(ほぼいつもそうだ)、残りのひとつだけはいつも「人生のゴール」につながるものにしておく。
そうすれば、夢に向かって毎日着実に前進していることになる(P.103)。

これは実際にやってみました。
朝、ツイッターに3つ呟いてみて、寝る前にできたかどうかを振り返ってみました。
圧倒的に進んでいる感は出ますね、おすすめです。

1度にひとつのことだけをする。
これが「今」に集中するための、何よりの練習方法だ。食べるときは、ただ食べる。何を口に入れているのかきちんと意識しながら、味と歯ごたえを楽しもう(P.068)。

私のモットーは「管理の前にまず減らせ」(P.113)。

Eメールは朝一番にチェックしてはいけない。これは生産性の向上のためには欠かせないポイントだ。
まずは、自分が「今メールをチェックしている」ということをしっかりと意識することからjはじめよう(P.124)。

ゴミ箱かダンボール箱を用意してひとつずつ処理を決めていく。
選択肢は「捨てる」「あげる」「とっておく」のいずれかだ。
見るだけ見てとりあえず引き出しに戻す、なんてことはしない。
「またあとで」の繰り返しになって、ガラクタの山と永遠におさらばできなくなる(P.187)。

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『秒速で1億円稼ぐ条件』

『秒速で1億円稼ぐ条件』
与沢翼

あらすじ
著者はアフェリエイトで財をなした人物。オプトイン・アフェリエイトという成果報酬広告の「広告主」としてメールアドレスを集め、集めたメールアドレスに「アフェリエイター」として自動返信メールを送るという二つの立場を使い分けるスキームが成果報酬を生み出すというものでした。「広告主」としての支払いサイトは75日と長めに設定し、「アフェリエイター」としての支払いサイトを短めにすることで、先に「アフェリエイター」としての報酬分を回収して、「広告主」としての報酬を支払うというものです。これをして、経費の回収と利益の確定を数秒でおこなうことから、「秒速で稼ぐ」という訳です。

読後の感想
正直、与沢さんの言動やその後の様子から食わず嫌いの感はありましたが、実際に本を読んでみると、印象は大きく変わりました。
読む前は単なる大言壮語のアフィリエイターかなと思っていましたが、実際にはリップサービスが過ぎて、せっかくいい内容でもわざと言い方を悪くして炎上させている方なのではないかというものです。
例えば、組織を作るとかビジネスを作る、といった話は抽象的でまったく響かないのに対して、自分で仕組みを作ったり作業をやったりするくだりは非常に具体的で分かりやすいし、いい意味でのギャップはありました。
ただ、いま与沢さんの本を読む意味があるのかと問われると残念ながら、読む意味に乏しいと思います。この本は発行された2013年にしか価値がない本です。
なぜなら、確かに与沢さんは稼いだかもしれませんが、あくまでも広告主が出す広告費を手に入れたに過ぎず、何か新しいものを生み出したりした訳ではなく、新しい価値が増えたわけではないからです。当時はまだ問題にならなかった手法で、仕組みの穴をついただけであり、一番最初に始めたのはすごいとは思いますが、内容としては褒められたものではないからです。
というわけで、読む価値なしでした。

印象的なくだり

今あるものにフォーカスしていくしかないのは当たり前の話で、それをどう活かしていくかが問われてくる。めそめそと現状を嘆いているばかりでは何も始まらないのだ。
ビジネスの視界は、それをスタートさせた人にしか広がってこない(P.041)。

資金や人材、ツール、商材など経営資源がないのでビジネスが始められないと言い訳をする人がいるが、その「ないからできない」という言い訳をするようでは経験上、決定的に金儲けには向いていないと思う。
それよりも、今ある経営資源をすべて書き出し、使えるものから投入していくべきなのだ(P.066)。

私の場合、今日何をやるのか全部書き出し、それを上から順番に修羅のように処理している。
その書き出した項目に「終わった」という意味で斜線を入れるとき、なんとも言えない心地よさを覚えて気持ちが爽快になることを自分が一番わかっている(P.072)。

ブログを書くうえで、一番良くないのが、何が言いたいかわからない「あいまいブログ」である。
(中略)
ブログを「誰に」向けて書くかは思いつきやすいが、そこに「何を」書くのかが難しい。「何を」がわからない人は、とりあえず好きなこと、趣味、嗜好、得意なことを棚卸し、コンテンツになるようなものを探し出すことだ(P.156)。

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『家賃について考えてみたら、収益を上げる方法が見えてきた。』

『家賃について考えてみたら、収益を上げる方法が見えてきた。』
亀田征吾
筑摩書房

あらすじ
不動産管理業者さん(物件を管理することを専門にする不動産業者)が家賃について書いたマニアックな一冊です。
現役不動産オーナー以外が読んでも全く興味が湧かないパワーワードの連続で読む人を虜にするでしょう。
特に106ページから始まる標準家賃からのプラスマイナスの表は圧巻でした。

読後の感想
著者は不動産業者で、賃貸の仲介と物件管理をする業者さんです。
作中にはほとんど売買の内容が出てこなかったので、おそらく賃貸専門なのでしょう。
その専門の業者さんがたくさんある事例の中から、家賃に影響する要素をピックアップして書いたのが本書です。
当たり前そうに見えますが、これはメチャクチャ凄い本です。

当初の希望と実際に決まった物件とのギャップは必ずそれだけの理由があり、そのギャップこそが家賃に影響を及ぼす要素であり、その価値が家賃差として現れているわけです(P.111)。

ということで、借りるお客さん側から要素を抜き出すところにこの本の凄さのポイントがあります。

というのも、物件の家賃を決めるのは大家やオーナーと呼ばれる貸す側なのですが、貸す側は借りる側の希望にきちんと寄り添えていない場合が多いのです。

賃貸不動産を供給する側、つまり新築物件を作るオーナーさんや、リフォーム・リノベーションをしてバリューアップをしようとする側、管理会社として様々な工夫をして空室を埋めようとする側は、プロダクトアウト(作り手がいいと思うものをつくる)の考え方で物事をとらえます。ですが、実際に物件を紹介する側は、マーケットイン(お客様のニーズに合わせて商品を提供する)の考え方で物事をとらえているのです(P.023)。

この一文が理解できないと優秀な不動産屋さんになれないのですよ、ええ。

ところで筆者の持っているCPM(米国不動産経営管理士)という資格、最近よく見るけど持っていると箔が付くんでしょうかね。
習得するのに100万円近くかかるらしいんだけど、その効果は如何に?

印象的なくだり

表面的な事実や根拠のない感覚だけで家賃が曖昧に決められることも珍しいことではありません。それは、誰が悪いとかではなく、何を基準に家賃を設定するのが良いのか、明確なものさしがないからではないかと私は思うのです(P.023)

まったくもってその通り。

築20年を超えた場合、リフォームやリノベーションを行うケースが多々見受けられますが、その場合、安易に資金を投下してあれもこれもと行うのではなく、まずは家賃を下げなければならない要素に重点を置き、資金回収期間も考慮に入れながら行っていくことがより効果的であると言えます(P.106)。

水回りでまず家賃に影響を及ぼす要素として挙げられるのは、お風呂トイレ周りです。
それには4つのパターンがあり、価値の高い順から並べると、
独立洗面脱衣所>脱衣所>脱衣所なし(お風呂トイレ別)>脱衣所なし(お風呂トイレ一緒)(P.122)。

全般的に同意する内容ばかりで珠玉の一冊です。
一棟オーナーには特にお勧めです。

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『フリーランス、40歳の壁』

『フリーランス、40歳の壁』
竹熊健太郎
ダイヤモンド社

あらすじ
「サルまん サルでも描けるまんが教室」の著者でもある1960年生まれのフリーランス竹熊さんが、編集者になったり大学の専任教授になったり結婚したり離婚したりを経て50代に突入し、今までを振り返って、どうやって生きてきたかを書いた本です。
タイトルにある「40歳の壁」は一言で書くと、

取引先の担当社員が年下になってしまうからなのです(P.234)。

ということ。

読後の感想
本署に登場するキーワードの一つとして「バブル期」の高揚感があると思います。
竹熊さんをはじめとして、対談相手として登場する生き残ってきたフリーランスたちは、青年時代にバブル期を味わっています。若くしてミニコミ誌で好きなこと書く→受ける→大衆受けする→新たな企画、という形で、いわゆる一般の企業になじめないままフリーランスとして生きてきてしまったと書かれています。

会社員はできなくとも、社長ならできる(P.263)。

は言い得て妙だと思いました。

あとがきを読むと竹熊さんは締切を守ることが相当難しい性質であることが分かります。そんな中、本書がダイヤモンド社から出版されたのは本当にすごい。担当者、編集者がすごい。この本を読んで、より強く思いました。

一番の発見は、対談相手である漫画家の田中圭一さんのキャリアでした。元々会社員だったのは知っていましたが、ずっと会社員をやりながら漫画家をしていたとは知りませんでした。レアすぎて余り参考になる気がしませんでしたが。

この本を通じて「町のパン屋さん」の可能性について深く考えなおすきっかけになりました。似たようなことはオタキングこと岡田斗司夫さんや、オンラインサロンを作る人が提唱していますが、インターネットの台頭によって3000人程度のファンがいるコミュニティを作れば、クリエーターはその人たちの援助で食っていけるというものです。生き残る人は変化に対応できた人ですね、やはり。

あと、カバーには「一生フリーで食べていくためのサバイバル術がここに」とありますが、そんなことは書いてないです。

印象的なくだり

プロとアマの違いはひとつしかありません。自分の仕事がお金になり、それで生活ができることです。よく勘違いされるので、書いておきます。プロは、アマチュアより才能があるからプロなのではありません。世間には、プロ以上に優れた作品が書けるアマチュアがごまんといます。
文学新人賞の審査の下読みをした人から聞いた話ですが、落選する応募者の中には、三島由紀夫や谷崎純一郎のような名文を書く人がかならず紛れているそうです。名文なのになぜ落選するのか?と言うと、一番の理由は「売れるフック(引っかかり)」が見当たらなかったのだと思います(P.019)。

このフックという言葉、残酷だなぁと感じる自分はまだまだアマチュアなのでしょう。
やはりプロの世界というものは努力とかだけで生きていける世界ではないのだなあ。

本当なら、浦沢さんはデビューしてすぐにでも『MONSTER』のような作品を描きたかったそうです。しかし『MONSTER』は複雑な心理サスペンスで、新人が描いたらマイナー作品として葬られる危険がありました。
そこで浦沢さんはまず「戦略的に」受けを狙って『YAWARA!』をヒットさせ、圧倒的な実績を築き上げることで、「描きたい作品が描ける」作家に自分を鍛え上げたと言えます。
(中略)
プロ作家として成功するためには、自分の苦手なものでも描かなければならないことがあるのです。芸術家肌の作家と、プロ作家は違います。浦沢さんは、ほんもののプロ作家だと私は思います(P.054)。

浦沢直樹さん恐るべし、

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『ルポ中年フリーター』

『ルポ中年フリーター』
小林美希

読後の感想
1975年生まれのフリージャーナリストが書いたインタビュー多めのルポ。インタビューはおおむね、不安定な雇用→不可避的なトラブル(病気、過労、家族の事情、妊娠)→非正規雇用、となり、その後は非正規雇用→スキル、キャリア積めない→正規社員になれずに時間が過ぎていくという悪循環の繰り返しというストーリーで展開しており、多くの事例が載っている割にはケースが似通っていると感じました。
逆に、事例選定よりも、数値評価はとても丁寧に書かれており、実は分析に長けた方なのではないかと思いました。

三五~五四歳のうち、非正規雇用労働者として働く「中年フリーター」は約二七三万人に上り、同世代の一〇人に一人を占めている。この数字に既婚女性は含まれていない。同年齢層の女性の非正規で、扶養に入るための「就業調整をしていない」人は四一四万人もいることから、潜在的な中年フリーターはより多いと思われる(P.012)。

この手の構造上の問題について提言する際には、個人的な問題を解決するために社会全体が動かないといけない的な、若干説得力に欠ける論旨になっていしまうことがままあるのですが、この本の文脈は、ロスジェネ世代(1968~1977年生)が65歳になると、生活保護受給者は77万人となる見込みだし、社会保障給付費は現在の約1.6倍、介護費が2.4倍、医療費が1.7倍、年金が1.3倍もかかるようになる、という政策上の帰結として捉え直すことによって、政治的な促しを求めているため、非常に説得力のある流れになっていました。

あと第三章の「良質な雇用はこうして作る」は、この本自体の論点からかなり外れており蛇足でしたね。大きく取り上げられている3つの事例のうち、2つが茨城県の企業というのも、作者の茨城愛を強く感じる結果でした。

なお、初めて知ったデータとして、文部科学省の「学校基本調査」の内容がありました。
今まではいわゆる「大学卒業後の就職率」ってぼんやり見ていましたが、2012年度からは就職者を「正規の就職者」と「正規の職員等でない者(雇用契約が一年以上かつフルタイム勤務相当(一週間の所定労働時間が四〇~三〇時間の者))」を区別しているとのこと。つまり、2012年以前の就職率は「一年以上の雇用契約」であれば「正規」「非正規」がごっちゃになっていたということらしいのです。データのとり方区分の問題なので今更しょうがないですが、なんか怪しい数字のような気がしてきました。

目次
序章
国からも見放された世代
第一章
中年フリーターのリアル
第二章
女性を押さえつける社会
第三章
良質な雇用はこうして作る
終章
中年フリーターは救済できるか

印象的なくだり

非正規でも安心して働くことを支える仕組みがある。
労働組合が運用している共済だ。たとえば日本医療労働組合連合会では、医療や介護職場などの労働者に向けた「医労連共済」を運用している。労働組合に入ることが共済の加入条件となっており、非正規雇用労働者でも組合員の家族でも加入できる。
「生命共済」「医療共済」「交通災害共済」をあわせた「セット共済」の掛け金は、最小で月額八〇〇円と加入しやすい。インフルエンザなど病気で五日以上休んだ場合でも、休業給付が受けられるのが特徴だ(P.044)。

http://www.iro-kyosai.jp/
これです。

アクサ生命の調査(「オトナの女のリスク実態調査」)では、三〇~四〇歳前後の独身女性が結婚相手に求める条件を示している。
上位を見ると、一位「価値観」(六一、八%)、二位「金銭感覚」(二七%)、三位「雇用の形態の安定」(二六、三%)の3Kとなっている。かつてバブル期には「高収入」「高学歴」「高身長」を3Kと呼んだが、これらはそれぞれ九位、一九位、二〇位とすっかり影をひそめた(P.060)。

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