知的な痴的な教養講座

知的な痴的な教養講座
開高健

読後の感想

 頭のいい中年の教養があふれる文章、との呼び込みで購入して読んだのだが、ほぼ猥談に近いという内容の本です。

 ただ文章自体はとても読みやすく、また短いエッセイが50章入っているという、敷居の低い本でもあります。

 教養としての部分にはいいエッセイが多いのですが、中でも特に秀逸なのが第二十六章の『コモン・センス』。
 この章のために一冊本を買っても悔いはない内容でした。『コモン・センス』の著者、トーマス・ペインの生涯について書き、そこから現代の状況にまで敷衍させる文章は、その文才と文章構成能力に鳥肌が立ちました。

『下剋上の時代を生き抜く即戦力の磨き方』

『下剋上の時代を生き抜く即戦力の磨き方』
大前研一
PHPビジネス新書

読後の感想
 徹底して自分個人の力を信じて邁進、という考えの下書かれている本です。
 いま所属している国や会社がどうなろうと、自分の力で生きぬいていく能力を身につけなければならない、というのが骨子だと感じました。

 今のままではいけないと警鐘を促すという意味で、大変参考になりました。例えるなら後頭部から殴られたような印象でした。
 とくに、語学力(英語)、財務力・問題解決力が重要だと説かれており、早速行動を開始しました。

印象的なくだり
 エスカレーターがこれからもうまく動いてくれるかを気を揉む暇があるなら、隣の階段を全速力で駆け上がれる体力をつけるトレーニングを、一刻も早く始めることだ(P026)。
 スペシャリストやゼネラリストというのは、環境や前提条件がドラスティックに変わってしまったら、その能力は途端に使い物にならなくなってしまうということだ(P038)。

 必要とあらばそれまでの常識や、たとえ成功経験から学んだ知識であっても、あっさりアンラーン(学習し直す)して、そこからゼロ・ベースで仮説・検証を始められる勇気と柔軟さはすごい。
 これこそがどんな環境にも色あせないプロフェッショナルの証なのである(P041)。

 即戦力に必要な「三種の神器」。
 即戦力というのはあくまで、まったく新しい環境に放り込まれても、冷静に本質を見極め、正確な判断や意思決定のできる、プロフェッショナルのことなのだ(P047)。

 私自身は、語学力(英語) 、財務力、問題解決力の三つが鍵だと思っている(P048)。

株投資の原則
一、株の性格と常識を勉強する
 株の構造や、株式投資にはどんなリスクがあるかなどは、取引を始める前に、必ず正確に理解しておかなければならない。
 また、相場全体が上昇しているときは「インディックス株を買え、こういう下げ局面では目をつぶって運輸株だ、電力株だ、消費財大手だ」といったセオリーが投資にはあるから、そういうものも知識として、知っておく必要がある。
二、身近に株を一緒に勉強する仲間を作る
三、世界を観る(P085)。

 問題解決の第一歩は「問題がどこにあるのか」「なにが問題なのか」を、自分で見つけ出すことだ。
 それには少しでも疑問を感じたらとことん追及し、この問題の本質はどこにあるのか自分で自分に問うことを繰り返す「質問する力」(Inquisitive Mind)が不可欠だ。
 そして次は、なぜその問題が発生するかという原因に言及し、何をどうすればその原因を排除できるかという仮説を立てる。
 ここで重要なのは「なぜ」という問いかけに対し、「もしかしたらこうなるのではないか」という仮説を設定できるかどうかである。
 仮説を立てたら今度は、その仮説の検証だ。もちろん仮説は仮説にすぎないから、そのままそれが問題解決につながるとは限らない。
 仮説がうまくいかないとわかったら、そこで新たに仮説を立て直す。あるいは仮説を実行すると、そこで新たに問題がおこるかもしれない。
 そうしたらその問題の原因を探り、取り除く仮説を立てる。これを真の解決策にたどり着くまで、何度も繰り返すのだ。
 これが問題解決法(プロブレム・ソルビング・アプローチ)の基本である。
 つまり問題に直面したとき、その答えを知っているかどうかではなく、常にこういうプロセスで問題解決にあたれるのが、問題解決力があるということなのだ(P094)。

 思いつきを結論にするな(P096)。

 危機感がないから考えない
 危機感がなければ、考えようという気が起こらないし、考えないのだから、論理的思考や問題解決力が育つわけがないのである(P113)。
生活のなかでパターン化したほうがいいと思われることは、全部パターン化しておく(P132)。

 事実の裏づけがないことをいおうものなら、「それはお前の意見だ。そんなものは聞きたくない。事実に基づいた発言をしろ」と、途端に非難の礫が飛んでくるのも、マッキンゼー式会議の特徴だ(P148)。

 先が見えないからこそ、長期的な目標を持って、自分の人生を設計すること。
 とくに三十五歳を過ぎたら、いつまでに自分はこれをやるというように具体的な目標を掲げ、いまよりさらに高い次元に向かって努力することを、意識的かつ強制的にやらなければダメだ(P174)。

 日本には、教育によって国の秩序を維持してきた歴史がある。戦後の混乱期ですら、国土が無法地帯になることなく、国民が粛々と復興に励むことができたのは、まさしく明治以降の教育の賜物だ。
 だから、いまもし社会不安が増しつつあるというのなら、それは経済格差が原因というより、むしろ近年の教育に問題があると考えるべきだろう。
 ただし教育というのは漢方薬なので、効果が出るまである程度時間がかかる。その間は国民一人ひとりがセキュリティレベルを上げて乗り切るしかない(P190)。

ケータイを持ったサル―「人間らしさ」の崩壊

ケータイを持ったサル―「人間らしさ」の崩壊
中央公論新社
正高 信男

読後の感想
 「ひきこもり」と「ケータイ」を使う若者、一見反対に見えるけれど、成熟した大人になることを拒否しているという点では同じである、という内容の本。

 もともとサル学者の著者が、その観点から見た面白い切り口が新鮮です。特に母親の耐久消費財としてのわが子という観点は、驚きでした。

印象的なくだり
 そもそも耐久消費財とは、他人と差別化する機能を果たしてはじめて、所有する意味を持つという側面が見逃せない。大衆化した商品ではどうしようもない。
 では、「私だけ」のものとして自分を光り輝かせてくれる可能性を秘めた、エネルギーをつぎ込める対象は何かないかと周囲を見渡した時、見つけたものがある。それこそ、「わが子」なのだった(P52)。

スポンサーリンク

村上朝日堂

村上朝日堂
新潮社
村上春樹

読後の感想
 村上春樹が割とどうでもいいことについて、気楽に書き綴ったエッセイ。毛虫の話題から、ヴェトナム問題まで脱力で書かれています。

 著者の小説の印象とはまた違った側面が表れており、クスッと笑える文章が心地よいです。イラストが安西水丸なのも文体と調和しており、ヘタうまな様子が見事だと思いました。

 相変わらず読んでいると、美味いものが喰いたくなる文章でした。空腹時はオススメできません(笑)。

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる

ウェブ進化論 本当の大変化はこれから始まる
梅田望夫

読後の感想
 インターネットが一般化してから起こった出来事が、リアル社会に与えた影響について書かれた良書。

 過去のネット上での事実としての出来事が、理由を踏まえて論理的に、そして当然の帰結であると書かれている。既に起こったことの原因を知るということは、これから起こる出来事をより正確に予測できるという意味で、非常に参考になる本でした。

 Wikipediaの記述など情報自体がやや古いところもありますが、本質は現在も同じであり、本質自体を捕らえることが目的なので、影響はほとんどないと思います。

 久しぶりに出会った素晴らしい本でした。

印象的なくだり
 アイデアの起案自身というのはほとんど評価されない。アイデアっていうのは当然、難しい問題を含むものだ。
 その問題を解決して、動く形にして初めて評価される。口だけの人はダメだな(P088)。
 ブログが社会現象として注目されるようになった理由は二つある。
 第一の理由は、「量が質に転化した」ということだ。
 第二の理由は、(中略)グーグルによって達成された検索エンジンの圧倒的進歩。もう一つは、ブログ周辺で生まれた自動編集技術である(P138)。

 「ニーズがあるのは、専門家そのもののスクリプトではなくて、それを伝えるスクリプトなわけで、単純にいえば、専門と一般を繋ぐブログということになる。」(P149)

 私たちが何かを知りたいと思ったとき、まず検索エンジンに向かうというライフスタイルは広く定着した。それによって、深い関心を共有する書き手と読み手が、検索エンジンに入力された「言葉の組み合わせ」を通して出会うことまでは可能となった。
 しかし考えてみれば、検索エンジンというのは、実に能動的なメディアである。問題意識、目的意識が明確な人にはいい。
このことについて知りたい。あのことについて調べたい。そういう欲求がある人にとって素晴らしい道具だ(P154)。

 リアル世界には地域経済格差が存在する。しかしアドセンス世界には地域経済格差がない。
 アドセンスの原資は、主に先進国企業が支払う広告費でできている。つまりドルやユーロでアドセンス経済圏はできあがっている。
よって、生活コストが安い英語圏の発展途上国の人々にとっては、生活コストの比して驚くほどの収入がアドセンスによってもたらされる。
 ネット世界で、あるトラフィックを集めて月に五〇〇ドルを稼げるとすれば、そのサイトを発展途上国の人が運営していても五〇〇ドル、先進国の人が運営していても五〇〇ドルである。
 ネット上に地域という概念は存在しないからだ。これは発展途上国の人にとって天恵とも言うべき仕組み。
 グーグルはこのことをもって、「世界をよりよき場所にする」とか「経済的格差の是正」を目標とすると標榜するわけだ(P160)。

 「実際ブログを書くという行為は、恐ろしい勢いで本人を成長させる。それはこの一年半の過程で身をもって実感した。(中略)ブログを通じて自分が学習した最大のことは、「自分がお金に変換できない情報やアイデアは、溜め込むよりも無料放出することで(無形の)大きな利益を得られる」ということに尽きると思う。」(P164)

知的生産の道具としてのブログ
(1)時系列順にカジュアルに記載でき容量に事実上限界がないこと、
(2)カテゴリー分類とキーワード検索ができること、
(3)手ぶらで動いていても(自分のPCを持ち歩かなくとも)インターネットへのアクセスさえあれば情報にたどりつけること、
(4)他者とその内容をシェアするのが容易であること
(5)他者との間で知的生産の創発的発展が期待できること(P166)。

 六次の隔たり(6 Degrees of Separation)という有名なアイデアがある。「地球上の任意の二人を選んだとき、その二人は、六人以内の人間関係(知己)で必ず結ばれている」というもの(P201)。

 ネットが悪や汚濁や危険に満ちた世界だからという理由でネットを忌避し、不特定多数の参加イコール衆愚だと考えて思考停止に陥ると、
これから起きる新しい事象を眺める目が曇り、本質を見失うことになる(P206)。