『高台の家』

「高台の家」
松本清張

読後の感想
麻布の高台にある家。糖尿病の主人と献身的に介護する妻、そして早世した長男の嫁である義理の娘。
この三人と家に出入りする数々の男性たち。
何とも謎の三人の関係と、男性たちの視線の先、そして糖尿病の病状のくだりと
流石松本清張らしさがでていてドキドキしながら読みました。

映像化も多く、割と有名な作品なのですが、
今まで読んでいた作品集の中には収録されていなかったため未読でしたが、今回ようやく出会えました。
作品の肝は、女性の抑圧された性に対する社会の考え方だったので、
若干時代背景が今と違い戸惑うことがあるかと思います。
僕自身が家庭内のドロドロが余り好きでないことも相まって、もう一歩というところでした。

「獄衣のない女囚」
女だけのアパートで起こった殺人事件の真相。
男性だけとか女性だけの公共の共同アパートそのものがちょっと想像しにくく、
その閉鎖的な空間というものがいまいち雰囲気がつかめませんでした
(しかも、話の中心や動機がその閉塞感なので余計に)。

それにしても清張の書く刑事は、みな想像力豊かで、机上の空論の上に
空論を重ねていくという「まぁ、小説だからね」感が満載で僕はすごく好きです(誉めてます
こっちが映像化できないのは、おそらく
下着泥棒がよく登場するからではないかだろうか、と邪推してみたりしなかったり。

『そして誰もいなくなった』

『そして誰もいなくなった』

読後の感想(ネタバレあり)

もう何回も読んでいるけど、『インシテミル』がアレだったので
口直しにもう一度読んでみました。
最後に読んだのは高校生くらいなので20年ぶりくらい(笑

いい本は何回読んでも新しい発見があるといいますが
ミステリーの場合は余りそんなことはないですね(当たり前
ただ、どちらかというと、子供の頃には殺害の動機について
はっきりと分かっていなかったように思います。
人生の年月を重ねてようやく、殺人者の気持ちが分かるというのも
「成長」と読んでいいのかどうかは分かりませんが…

この本の影響力はやはり教科書的なミステリーだからだろうなぁと思っています。
舞台は孤島というクローズドサークル(閉鎖空間)、童話に見立てた殺人、
10人のネリティブアメリカンインディアン人形が減っていくという恐怖、
そして「どうせ最後まで生き残ったやつが犯人だろう」という
読者の甘い目論見を粉々に壊す終わり方(そして誰もいなくなった)、
どれもその後の様々な作品に影響を与えるような
素晴らしいものです。

しいて言うなら、「燻製のにしん」「カインの刻印」「マザーグースの童話」など
日本になじみの薄いものは、注釈が欲しかったなぁと、思うところです。
(高校生のときはそのあたりは理解できなかったので)

『面白い本』

「面白い本」成毛眞

読後の感想
僕も割と一般の人よりかは本を読む方だと思っていましたが
この本に紹介されてる100冊の本のうち
知っている本は僅かに6冊しかありませんでした。
その位、超マイナーな本ばかりを集めた書評(最後の章は鉄板でしたが)です。

それでいて、どの本の書評もすごく面白い。
引き込まれる、読みたくなる、そしてamazonでポチってしまう(3冊買いました
なんせ、あらすじだけ書かれても全然話の内容が見えてこない本ばかりなのです。
好奇心が抑え切れませんでした。

著者の成毛さんは、ひたすら読む人。
読むと何を知っていて、何を知らないかが分かるという理由で
小学生のときに百科事典を寝る前にただひたすら読んでいたという
賢いんだか、なんなのかよく分からないエピソードの持ち主です。

そんな人が選んだ「面白い」本。
仕事に役に立つとか、そういったことは全部度外視して
ただ面白いものばかりを選んだというセレクトは
本当に役に立つことはない、ただただ面白いものばかりでした。

まえがきにとても共感した文章が載っていて
この本の言いたいことはまさにこれに凝縮されているので引用。

ノンフィクションで描かれるのは、おおむね極端な生き方や考え方だ。
野糞をすることこそがエコロジーであるという極端な世界観をもつ人を知ったり、数学の難問ポアンカレ予想の証明の舞台裏を知ったところで、自分の日常生活には何の影響もないし、何の意味ももたない。
しかし、一見無駄な、極端な知識を得ることで、自分が世界のどこに位置しているかはわかるようになる。
それはつまり、人間の壮大な知の営みの中に、自分を位置づけられるということだ。
自分という小さな個は、知の歴史という巨人の肩に乗っているだけの存在なのだ。
その「巨人」と対話をすること。
それが私にとっての読書なのかもしれない(P.Ⅳ)。

激しくお勧めの一冊でした。

『聞かなかった場所』

読後の感想
著者が亡くなったのをいいことにテレビ局があっちこっちと設定を変えて
ついには主人公の性別まで変わってしまい、元ネタがなんなのか良くわからないことで
一部の松本清張マニアには有名な一冊(末尾参照)。
久しぶりに手を取ったのは、先日読んだ『インシテミル』の読後感が
何にもなかったから…。
というわけで、この一冊。
いわゆる小役人が妻の死を契機に、自ら動き推理し、そして手にかけてしまうというお話。
この本の醍醐味はいわゆる主人公の追い詰められ方です。
自分の身を隠そうと良かれと思ってやったことが全部裏目に出て
どんどん立場がやばくなっていってしまい、最後には…

ラスト一ページが圧巻です。

元ネタ→テレビ
小説では主人公は男性→テレビでは女性
小説では主人公の勤務先は農水省→テレビでは厚生福祉省
小説では主人公はノンキャリ→テレビでは局次長
小説では坂道の場所は代々木→テレビでは大塚
小説ではキーとなる場所は連れ込み旅館→テレビでは薬局

『インシテミル 』

『インシテミル 』
米澤穂信

読後の感想(ネタバレあり)
ミステリー好きな人はたまらないネタがあらゆるところにちりばめられていて、知っている人はニヤリとする作品。
主人公たちが館に入ったら真っ先にラウンジに現れる人数分のネイティブアメリカン人形はアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』を髣髴とさせ、著者はミステリー好きなんだなぁとニヤニヤしながら予想して読み進めました。

極めつけは各人に配られたカードキーの裏側に書かれたいわゆるノックスの十戒です(P.058)。

1.犯人は<実験>開始時に建物内にいた人物でなければならない
2.各参加者は超自然的な手法を用いてはならない
3.二つ以上の秘密の部屋や通路を使用してはならない
4.未知の毒物や長い解説が必要な装置を用いて殺人を行ってはならない
5.各参加者は中国人であってはならない
6.探偵役は偶然や不思議な直感のみを犯人指名の根拠してはならない
7.探偵役となった者は殺人を行ってはならない
8.主人に対し手がかりを隠蔽してはならない
9.ワトスン役の知能は主人のそれよりも僅かに劣ることが望ましい
10.各参加者は双生児であったり犯人に瓜二つであったりしてはならない

ちなみに注釈が必要だと思われるのは5番。別に中国人に限ったことではないのですが、イギリス人のノックスからすると全く異なる文化・風習を持った人を犯人役や参加者に仕立てては、その人の行動を理解することが困難になってしまうため、だそうな。

ちなみに本書では意図的にこの十戒を破り、あとでカバーする方法をとっています、なんてケレン味たっぷりなっ!

話の大筋は、いわゆる閉鎖空間で行われるローカルルールを元にしたゲーム(殺し合い)という、「バトル・ロワイヤル」的な、割と最近の流行なんでしょうか。

作品としてはよくできていると思います。文章と言うよりも構成が秀逸ではないかと。
外界と遮断された閉鎖空間、見ず知らずの他人、第一の殺人、お互いが疑心暗鬼、
各人に配られた人を殺せる武器、鍵のかからない部屋、見えない監視者、妙に凝った装飾、
真実よりも多数決を優先させる意思決定方法と、恐怖心を煽る演出がとても上手だったと感じました。
本を読んでいる僕ですら、いつ誰が襲ってくるか(襲ってこないかもしれない)分からない中で、鍵のかからない部屋にて一晩を過ごさなければならない「夜」が早く終わらないか、ハラハラしながらページを読み進めたというものです。

ただ、作品の構成が素晴らしいだけに、最終的には動機などはいっさい描かれず(たぶん意識的に)、僕の中でのミステリーの重要な要素たる「動機」がすっぽり抜け落ちていたので、個人的に、この本の終わりは「え?なんだそりゃ?」という感じもありました。
また基礎知識を要する描写も多く(各人に配られた武器自体が、著名な小説を元ネタにしているので、使用方法はその小説を知らないと分からない物もあったりする)、分かる人だけニヤリと分かり、分からない人にはそれなりにと、ミステリー好きにちょっとした優越感を持たせるあたりも、個人的にはどうかなと思いま した。

また、(本書とは関係ありませんが)映画はひどいらしい(感想サイトによると

印象的なくだり

今度こそ本当に、心底から了解した。
必要なのは、筋道立った論理や整然とした説明などではなかった。
どうやらあいつが犯人だぞという共通了解、暗黙のうちに形作られる雰囲気こそが、最も重要だった。
疑心暗鬼が雪崩を打つ先、それが<暗鬼館>における「犯人」の、唯一の条件なのだ(P.421)。